二一二 四月二十五日

東學黨ノ動靜ニ關シ報告ノ件

機密第十三號

一珍事起ル每ニ種種ノ浮說ヲ傳フルハ別ケテ當國ノ常態ニ
有之去ル二十一日夜モ當釜山城門ニ「近日朝鮮國中騷動
起ルヘシ」トノ主意ニテ通文ヲ貼付セシモノ有之時節柄人
心動搖ノ憂ナキニモアラサルニ付釜山僉使ハ告示ヲ發シ右
ハ全ク何者カノ惡戲ニ出テ東學黨ノ所爲ニアラス就テハ士
民安堵浮說ニ惑ハサレサル樣可致旨令達ニ及ヒタルカ其後
更ニ何等異狀モ無之一般靜謐ニ有之候序ニ申述候カ事少シ
ク陳腐ニ屬シ候得共抑彼ノ東學黨ナルモノハ一ノ宗派ニシ
テ忠淸道雞龍山ニ起リ黨祖ヲ崔福戌ト云フ彼レ張角ノ亞流
ニシテ自ラ幻術ニ通スト稱シ種種ノ妖言ヲ放チ人心ヲ蠱惑
スルヲ以テ今ヨリ三十年前政府ハ其宗旨ヲ嚴禁シ且福戌ヲ
罪シテ流刑ニ處セシカ彼ハ配所ニ赴ク途上船中ニテ病歿セ
リ然レトモ彼カ黨與ハ之ト共ニ滅盡セサリシノミナラス却
テ漸次ニ其數ヲ增シ現今ニ於テハ全羅道最モ多ク同道官吏
中ニモ竊カニ之ヲ信奉スルモノアリト云フ彼等ハ黨祖ノ死
ヲ以テ冤枉ニ歸シ畢竟政府ハ彼ヲ殺サント欲セシモ其名ナ
キニ苦シミ枉ケテ流刑ニ處シ其途上ニ於テ殺害セルモノナ
リト思ヘリ且近來耶蘇敎ノ如キハ自由ニ奉敎ヲ許サルルニ
係ハラス特リ東學派ノミ制禁ヲ解カレサルハ正邪所ヲ異ニ
シ政府ノ所置其當ヲ得ストテ全羅道監使ニ迫マリ一ハ該敎
ノ解禁ヲ謂ヒ一ハ黨祖ノ雪冤ヲ訴フルコト屢屢ナリシモ常
ニ滿足ノ結果ヲ得サリシヨリ今回世子宮ノ誕辰ヲ機トシ黨
員二十名上京玆ニ伏闕上疏ノ擧ニ出テタリ然レトモ右上疏
ハ正當ノ手續ヲ踐マサルヲ以テ受理スヘキニアラストテ之
ヲ斥ケ且同時ニ捕吏ニ命シ彼等ヲ逮捕セシメントセシモ捕
吏等ハ彼等ニ手ヲ觸ルヽ時ハ忽チ災殃ニ罹ルヘシトテ大ニ
恐レ逡巡敢テ應セサルヨリ彼等黨員ハ無事都門ヲ出テヽ歸
途ニ就キタリ其後ニ至リ在京城米國公使館ノ門扉ニ一片ノ
脅迫書ヲ貼付シタルモノアリ其文意ハ我黨ノ宿願ハ外敎排
斥ナリ故ニ汝等速ニ立去ルヘシ若シ三月七日(我曆四月二
十二日ニ當ル)迄ニ立去ラサルニ於テハ汝等ノ家屋ハ盡ク
破壞スヘシ尙理由ヲ問ハント欲セハ雞龍山上ニ來レトアリ
依ツテ米公使ハ直ニ右脅迫書ヲ持シ外務督辦ヘ面談其處置
ヲ求メタル處督辦ハ嚴重右貼付者ヲ搜索スヘキ旨答ヘタル
由然ルニ右ハ果シテ東學黨ノ所爲ナルヤ否ヤ明カナラス何 トナレハ彼ノ二十名ノ黨員ハ旣ニ京城ヲ去リタル後ノ出來
事ニシテ且同黨上疏ノ趣旨ハ旣ニ世上ニ流布セシヲ以テ或
ハ黨員外ノ者其主意ニ基キ黨員ノ脅迫書ニ擬シテ惡戲ヲ試
ミタルモノナキニモ限ラサレハナリ此等ノ出來事ヨリシテ
浮說更ニ浮說ヲ生シ人心尙疑懼ヲ懷クモ實際左迄氣遣フニ
ハ及ブマシト云フ以上東學黨ニ關スルコトハ頃日京城ヨリ
歸リタル當港監理署員ノ內話ニ有之御參考迄ニ倂セテ申進
置候也

明治二十六年四月二十五日

在釜山

總領事 室田義文

外務大臣 陸奧宗光殿

追テ別紙東學黨宣言書貼付文等相添置候也

註 別紙ハ旣出ニツキ省略ス