廿七年五月廿二日接受 主管 政務局[印]
大臣閱
次官[印]

機密第五十二號

東學黨ニ關スル二大將ノ直話

壯衛營大將李鍾徤氏ノ直話

本營兵丁七百余名ハ過日招討使洪啓
薰ノ引率スル所ト爲リ水路全羅道ニ赴キ
群山浦ヨリ上陸シテ全州監營ニ入リ目下
同所ニ駐レリ此擧我政府ハ直チニ匪徒ヲ
彈壓セントノ意旨ニアラズシテ乃チ彼等ヲ招
諭シ歸順ノ途ニ就カシメンコトヲ專ラトセリ然レ
トモ彼等ハ飽迠抗敵ヲ試ムルカ如クレバ止ムヲ得
ス兵力ヲ用ヒテ之レヲ勦夷セザルヲ得サルナリ本
月初八日全州監營兵丁五百名ノ中若干
ハ東學黨ト接戰シ殺傷多ク營將兼稗 將李璟鎬之ニ死セリ京軍ハ未タ一回モ
折衝シタルコトナシ招討使ノ電報ニ據レバ同使
ハ目下形勢ヲ視察シ彼等ノ一團結ヲ爲ヲ
待ツテ()之レカ諭解ヲ試
ントスルモノヽ如シ故ニ此後ノ形勢ニ據リ尙ホ
示威上京軍ノ派遣ヲ要スル如キ場合トナラハ
我部下ヨリ二三百人ヲ派スベシ云云又同大將
ハ追追收麥ノ時季ト爲リ揷秧之ニ次キ農
家ニ取リテハ最モ多忙ノ時期ナルニ此等匪
徒久シク鎭定セスシテ終ニ稼穡ヲ誤チ良民ヲ
シテ慘禍ノ地ニ陷ラレムルカ如キアラバ一大歎息ト云ハ
サルヲ得ス云云

左捕盜大將兼扈衛大將申正熙氏ノ直話

予ハ昨年來東學黨ノ捕獲ニ力ヲ盡シ已ニ其
重ナルモノ五六名ヲ捕ヘ今尙ホ囚禁中ナリ予ハ
屢屢彼ニ就キ審訊セリ彼等ハ云フ別ニ他意ア
ルニアラス只タ其目的トスル所ハ地方政ノ改良ヲ求ム
ルニアリ敢テ世人カ喋喋スル如キ妖術トカ宗敎トカ
稱スベキモノニアラス其稱スル所ニ據レバ吾徒ハ記名ノ
簿冊ヲ具ヘサレバ果シテ幾何ノ大數ニ及フヤ杳ト
シテ詳ナラス要スルニ地方官ノ暴政ニ苦シ或ハ不
正ノ刑名ヲ被ムルモノ官民ノ別ナク皆ナ來ツテ之ニ
投シ其主張スル所ハ公明ニ訴ヘテ地方政ヲ釐
革シ無辜ノ民ヲ慘禍ヨリ救ハントスルニアリ云云
予以爲ラク我國泰平年久シ紀綱漸ク頹敗
風儀大ニ紊亂シ彼ノ地方官ナルモノ民治ヲ努 メス貪虐是レ事トス爲之民擾蔟發方
今ニ及ンテハ八道殆ント寧日ナシ此際我政府
ハ大ニ猛省スル所アリテ地方制度ニ一大革ヲ施
シ此ニ紀網ヲ張リ風儀ヲ匡スニアラザレバ何程東
學黨ノ鎭滅ニ心力ヲ費スモ到底其效ナカル可
シ幸ニ一旦彼黨退散スルモ同ナラズシテ再ヒ第
二ノ東學黨ヲ見ルニ至ルベシ云云ト語レリ氏ハ武
官ナレバ內政ニ喙ヲ容ルヽ能ハス縱令之ヲ容ルヽ
事ヲ得タリトシテモ目下國政ヲ專握スルハ獨リ閔氏
ノ一門ナレバ到底採用セラルベキ見込ナカル可シ而
シテ氏モ之ヲ慨歎スルモノ如シ

因云フ昨日鄭書記生ヲ淸館ヘ差遣シ候處
袁世凱氏モ痛ク東學黨ノ猖獗ヲ憂慮スル 樣子ニテ「同黨處分ニ付朝鮮政府ノ老人速速功ニ
說諭解散ヲ唱フレトモ予ハ之ヲ是視セス彼等ガ一
旦干戈ヲ手ニシテ官吏ヲ殺シ官物ヲ奪ヒタル已上ハ
旣ニ說諭解散セシム可キ分界ヲ踰エタルモノナリ依テ
更ニ兵員ヲ增遣シテ之ヲ掃討ス可シト勸メタリ但シ
國王殿下ニハ可成ハ旣遣ノ兵ニテ鎭定ニ至ル事ヲ
望マルヽ趣ニテ未タ何レトモ決定セサル旨」申居リ
タル由

右及御報候也

明治二十七年五月十六日臨時代理公使杉村濬[印]
外務大臣陸奧宗光殿