各大臣、大鳥公使參謀本部ヘ寫送リスミ
廿七年六月一日接受 主管 政務局[印]
大臣閱
次官[印]

機密第六十六號

全忠兩道ノ民亂ニ關スル報告竝批評

全忠兩道亂民ノ景況ハ四五日前ヨリ朝鮮
政府ハ電報ノ漏洩ヲ嚴禁シ該地方ヨリ來
到セル電信ハ暗號ノ儘緊封シテ之ヲ政府ニ
送リ且ツ京城ト該地方トノ間ニ於ケル私報取
扱ハ一切之ヲ禁シタル趣ニテ幾ント之ヲ探知
スルノ道ナク諸方ニ手ヲ廻シテ漸ク其端ヲ知
得スル次第ニ有之候要スルニ數日來ノ景況ハ
亂民勢ヲ集メ南下シテ靈光ヲ陷シ滊船
漢陽ヲ攻擊シテ役員ヲ捉出シ招討使ハ全
州ヲ出テヽ靈光ニ向ヒ亂民轉シテ咸平ヲ陷シ
タル等ハ事實ト被推考候但シ數日前京軍 敗績ノ風說專ラ有之候ヘトモ今日迄未タ京軍
接戰ノ確報ニ相接シ不申候尤モ或ル慥ナル報
告ニハ開戰已來ノ官兵死亡者ヲ數ヘテ土兵
三百余名京軍十二名ト稱シ又一報ニハ京軍
負傷者多シト云ヘリ左レハ京軍ノ接戰ヲ事實
ニアラサルヤト被推測候將又亂民處分ニ關スル
廟議ハ一嚴一寬定マラス初メハ京軍出征
ノ虛威ヲ以テ亂徒ヲ恐赫シ風ヲ望ンテ解
散セシメント豫期シタル處此議ハ閔泳駿之ヲ主張シ袁世凱陰ニ贊成シタル者ト推察
セラル亂民ノ强硬ナル事全ク其豫想ニ反シタルカ故
國王ニハ更ニ諸大臣ノ議ヲ容レ貪婪ノ地方官
ヲ處罰シ以テ亂民ヲ招諭セシメラレントスルモノヽ
如シ近日ノ朝堂公議錄ナリトテ得タルモノ左ノ如シ 東撓漸ク滋漫事々測ラレス誠ニ細慮
ニアラス況ンヤ三南ハ國家ノ保障ナルヲヤ
人心煽動セハ自然農ヲ失ハン此誠ニ危
急措ナキノ事ナリ招討ノ兵ハ或ハ幾千名
ヲ剿滅スト雖モ數萬名同心シテ死生ヲ共
ニスルノ衆ナレハ猝ニ屠戮シ難カラン現今
ノ事勢ハ曉喩ヲ加ヘ之ヲシテ歸化セシム
ルニ如カサルナリ或ハ此徒ヲ指シテ烏合ト
謂フモ然トモ旣ニ人生萬名ノ集會ニ至
レリ且ツ三南緊要ノ地農ヲ失フヲヤ
大臣中一人自ラ體察使ノ重任ニ當リ
道伯已下ニ向テ先斬後啓奏聞ヲ經スシテ
斬罪ニ行フヲ云フノ權ヲ執リ而シテ貪官猾吏 ヲ一倂梟首シテ先ツ弊政ノ大ナル者ヲ
除キ然後以テ曉喩ヲ爲サハ則亂民一
朝ニシテ退散セシ伏シテ聖上ノ垂察ヲ乞フ
閔泳駿獨リ曰ク貪官猾吏安クニ在ルヤ
近來人心良カラス敗訟者ハ冤ト稱セリ
而シテ一邑ノ內豈ニ敗訟者ナカランヤ此
輩徒黨ヲ嘯聚シ先ツ百餘人ヲ
擧ケ來リテ宮廷ニ爭フ若シ意ノ如ク
ナラサレハ則官長ヲ辱シム而シテ其甚キ
者ハ境外ニ逐出セリ是豈民習ナラン
ヤ方今東徒ト云フ者ハ皆亂民亡命
者ナリ此輩但曉喩ニ止メ殺サスレバ此
レ惡ヲ養フナリ民ヲ愛セント欲スト雖トモ 此等悖民ハ之ヲ置クモ何ソ國家ニ益ア
ランヤ外國ノ兵ヲ借ルト雖モ剿滅シテ然
後國家無事ナラン

上曰ク此徒ハ忠孝ヲ以テ本ト爲スト云ヘリ
以テ之ヲ悖民亂習ニ歸スヘカラス廟議
或ハ怪キ事ナカルヘシ

閔泳駿曰ク彼徒ノ「忠孝ヲ本ト爲ス」トノ
申觸ハ邪ヲ飾ルナリ必スシモ信セラレス若
シ治ヲ國ヲント欲セハ之ヲ滅シテ可ナリ

右廟議ノ結果ニヤ去二十二日ノ朝報ニ外務
協弁金鶴鎭氏更ニ全羅道監司敍任
ノ事ヲ記載シ同時ニ前監司ハ免職ノ上罰
俸古阜郡守趙秉甲ハ貪虐ノ罪ヲ 以テ京城ヘ押上其他方伯守令ノ貪虐ナ
ルモノハ一々其罪ヲ論シテ民心ヲ定メ且ツ急
ニ王命ヲ以テ亂民ニ曉喩スル事ニ詮議相成
タル旨致傳承聞候左レハ閔泳駿氏カ始メ
ヨリ主張シタル派兵剿滅ノ議行ハレス諸大
臣ノ奏議終ニ採用相成リタルモノト被推測候
ヘトモ右樣ノ姑息處分ニテ果シテ能ク亂民
ノ心ヲ滿足セシムヘキヤ否目下疑問ノ中ニ有之
候再昨日金嘉鎭氏來館談話中ニ全羅
道ノ亂民ハ本ト地方官ノ虐政ニ堪ヘスシテ
興リシモノニテ深キ希望ヲ懷ク者ト思ハレス
故ニ此際貪官汚吏ヲ嚴討シ地方ノ弊政
ヲ改革セハ夫ニテ鎭靜ニ歸スヘシ作亂已來 彼等ノ所業ハ地方官ヲ逐ヒ官穀ヲ奪フ
等ニ止ルヲ觀テモ彼等ノ心中ヲ推測シ得ヘシ
ト申居候右ノ疑問ハ今後十數日間ノ景況
ニ於テ其如何ヲ判定シ得ル事ト被存候

右及上申候也

明治二十七年五月廿五日
臨時代理公使杉村濬[印]
外務大臣陸奧宗光殿