廿七年六月六日接受 主管 政務局[印]
大臣[手決]
次官[印]
親展送第▣號
上奏各大臣樞密院議長參謀本部次長右八日ニ命ヲ承ケ四日コンニセラ揭ヲ以テ配▣▣[手決]

公第七十三號 通商局長[印] 受第六七八○號

當國全羅道地方旅行ノ我國人某ヨリ當港
居留ノ某ニ達セシ東學黨ノ擾亂ニ關スル
日記ヲ得候ニ付別紙寫壹冊爲御參考
差進候也

明治二十七年五月三十日

在釜山
總領事室田義文[印]
外務次官林董殿

東學黨騷擾ハ元來古阜郡ノ民亂ヨリ引續
キ起リタルモノニシテ今日ヨリ見ルトキハ恰モ
古阜ノ民亂ハ東學黨ヨリ引受ケタル姿トナリ
居レリ此日記ハ正月十日ノ府廳襲擊ヨリ始マリ
爾來黃土山ノ激戰迠四ケ月間ノ出來事ヲ其騷擾
ノ中心點古阜郡ヲ去ル二里計ノ地ニアリテ見聞セシ
マヽヲ記セシモノナリ民軍ニ首領全明叔ハ眞乎東
學黨▣▣ノ丈夫ニシテ黃土山ノ戰略ハ多ク明
叔ノ指畵ニ出ツト云フ目下京軍ノ逆賊トシテ
嫉視スルモノハ唯全明叔一人ニシテ自餘ハ彼
ガ煽動ニ據リテ烏合セルモノト思量セリ宜シク古
阜ノ民擾ナクシテ東學黨騷擾ト別物視エル ナケレハ▣▣

陰曆四月十二日於湖南黃湖
巴溪生報

全羅道古阜民擾

甲午正月初十日拂曉一群ノ亂民古阜邑ヘ亂
入シ突進シテ郡守カ寢處ヲ侵カス郡守倉
皇塀ヲ踰ヘテ逃カル左右從フモノナシ亂民隊
ヲ分チ搜索スレトモ遂ニ▣ス此際官私ノ別ナク
一人ノ之ヲ交フルモノナク吏部以下ノ官屬皆彼
等ノ爲メニ捕拿セラル

古阜ハ沿海ノ地ニアラサルカ故ニ仁川釜山在留
我商業者ニハ關係薄キ土地ノ如クニシテ其邑
名サヘ知了セル人稀ナリト雖其實金堤及萬
頃等聯續セル大平野ニシテ二十八村落ヨリ
成リ土地肥沃ニシテ農産ニ富ミ茁浦鹽所
東津沙浦ノ四港ヨリ遠近各地ニ輸出スル高 少ナカラス(上納高一萬八千余石稅庫ハ扶安
茁浦ニアリ)貿易上樞要ナル箇所ノ一ナリ

郡守ハ彼ノ咸鏡道防穀令ニ▣テ有名ナル
趙氏ノ姪ニシテ姓ハ趙名ハ丙甲ナリ此國內政
紊亂ノ極所謂憑公營私ノ事決シテ音ト
ナスニ足ラサルカ▣シト雖其苛斂弊政ノ在ル處
實ニ我國人ノ想像ニ堪エヘキコトニアラス以下趙
丙甲失政ノ跡ニ就テ一二ノ所聞ヲ記セシ

昨秋此地方ノ豐作ナリシニ拘ハラス丙甲▣穀
令ヲ布キ親近ノ人ヲシテ盛ンニ米穀ヲ買收
セシメ而シテ米價暴騰ノ際ニ於テ之ヲ放賣
シ忽チニシテ巨額ノ利ヲ得タリ

又稅米取立ニ際シテモ非道ノ擧アリシヲ以テ 昨年十月頃少シク民心ノ穩ナラサリシコトアリ
シ又同年九十月ノ頃僧侶ヲシテ張札ヲ配付セ
シメ報酬ヲ已ニ收メタリトノ噂アリシ又或ハ
一河ヲ堰キ止メタルヲ灌漑ニ假リ每回多少ノ
報酬ヲ强徵セシコトアリ是レ民怨ヲ買ヒシ
最重ノ原因ナルカ如シ

十日鷄鳴ヲ待テ東津江頭ニ勢揃ヒヲナレタル
民軍ハ何レモ白木綿ヲ以テ頭部ヲ纏ヒ長サ
五尺有余ノ竹槍ヲ携ヘリ最初集リタルモノハ
凡ソ五百人計リナリシ而シテ首領以下皆徒
步セリ城府ノ關門難ナク通過シ朝堂ト稱ス
ル郡守ノ事務ヲ執ル所ノ前面ニ出タリ寢所
ヲ冒シ進ンテ內部ノ諸衙ヲ突キ搜索周 密而シテ夜來未タ明ケス賢子已ニ逸▣▣▣
ニ方角ナシ先ツ京▣ヲ追蹤ニ及ハス午時反
對ノ方角井邑ノ邊ニ遁レタルヲ知レリ首領(七
名中重ナルモノハ全某他ハ未タ詳ナラス)先ツ朝堂
ニ入リ使ヲ發シ吏部其他重ナル惡政ノ助力者
ヲ▣ブ來ラサルモノハ捉捕ス陣營整肅號
令明晰他ノ▣旗軍ニ似スト云フ先ツ惡政ノ
始末ヲ嚴重ニ取調フル爲メ每日拘留ノ面面
ヲ鞫問ス陣營ハ府ノ內外ニアリ皆幔幕
ヲ連ネ夜ハ煹火ヲ焚キ糧ハ敵ニ依ル彼ノ堰
堤ヘ報酬トシテ取留メ居タル糧千四百余石
ハ劈頭ニ彼等ノ用ニ供セラレタリ

十一日、十二日、十三日、十四日加盟スル村落十有五個 全軍一萬余人先ツ壯丁ヲ拔キ老少ハ歸ヘシ
之ヲ統フルモノ每村五名隣郡到處同情ヲ表シ
槪シテ惡評ヲ加フルモノナシ然レトモ亦進ンテ之
ニ合シ自己カ頭上ノ惡政ヲ拂ハシト欲スルモノ
ナシ

十五日趙丙甲全州監營ニ投ス是ヨリ先キ
彼レハ單身逸走シ郡下ノ名望者前府使
鄭某ノ家ニ潛ミ哀ヲ乞ヒ鄭ノ爲メニ變
裝シ井邑ノ方面ヘ逃レ辛フシテ監營ニ投
セシナリ(古阜ヲ距ルコト我十三里)之ニ因テ鄭ハ
禍ヲ買ヒ目下▣▣ニアリ

丙甲監營ニ到リ先ツ監司ニ謂テ曰ク奸徒
▣▣▣▣▣▣▣▣▣リケ府門ヲ襲ヒ部 ▣▣▣皆▣▣▣▣▣シナリテヤ禍▣予カ身
ニ及ハントス纔カニ免シテ變ニ投ス願クハ兵▣千
ヲ借セ直ニ馳セ下リニ▣ヲ鎭メント監司聞
カス書ヲ台閣ニ▣ハル以テ指揮ヲ▣ツト丙
甲竄シテ營門ニ在リ而シテ席旗軍此後
如何

十七日民軍馬首驛ニ集マル首領以下大ニ議
スル所アリ軍機祕密得テ聞クヘカラス此日
更ニ十三ノ精銳ヲ拔ク

二十日朝彼徒余ノ滯在スル茁浦ヲ過クルモノ三四
十人各竹槍ヲ携フ聞ク彼等ハ隔江ノ地ニ在ル
古阜農民ニシテ之ヨリ本營ニ集ルモノナリト云
フ

此日完營(卽チ全羅道監營)ヨリ判官閔某
監司ノ命ヲ承テ下リ茂長縣監亦同命ニ用
テ來ルトノ風說アリ民軍ノ成敗ハ惟フニ此一兩日
ノ運動如何ヲ由テ決スヘシ若シ此際ニ於テ判官
縣監等ノ處置意ニ滿タサルモノアルトキハ益益
彼等ヲシテ其氣焰ヲ熾ンナラシムルニ至ルヘシ

二十二日一昨朝通過セシ民軍ノ一部歸去スルヲ
見ル此日民軍ニ不利益ナル風評起レリ

嗟今少シク健全ナル首領アラハ最早進ンテ
爲ストコロアルヘキニ荏苒踟躕民心漸ク弛
懈スルニアラサルカ然レトモ若シ一郡ノ総代トシテ
京ニ出ルカ或ハ全營ニ出テ正面ヨリ爲ストコ
ロアラントスルトキハ人命ヲ芥ノ如ク思視スル 此國ノ習トシテ其理非ノ如何ヲ察スルニ
遑アラスシテ▣首スルコト勿カルヘキカ之レ第
一ノ恐レナ▣如カス全軍ヲ帥ヒテ先ツ監營
ニ至リ監司若シ爲メニ力ヲ費ヤサヽルトキハ進
ンテ▣ニ出テ須ラク大闕ノ下ニ伏シ大ニ稟議
シ兵力ヲ以テ我ニ加フルトキハ潔ク決戰シテ
死スヘキノミ若シ此ニ至ルノ氣槪ナクシテ事ヲ
起スモ無益ナリ

右等ノ事情ニ因リ彼徒ハ利益完全ニ目的
ヲ達スルコト能ハサルヲ憂ヒ是ヨリハ只タ解
散ノ運ニ接スルナラレヲ期シ其後ハ此事
實ヲ記スルヲ懶トシ別ニ着目スルコトモ
ナカリシガ筆ヲ擱クコト旣ニ三十余日冷灰 復タ▣サニ▣レトスルモノアルヲ見ルニ至レリ

▣後ノ狀況ニヨレハ民軍ハ互ニ交代シテ人員
ニ減少ヲ見サルノミナラス竹槍ヲ執テ三三
五五相往來スルモノ絶ユルコトナシ此等ノモ
ノニ就テ聞クニ一度ヒ陣營ニ入レハ殆ント
人生別境ノ如ク家ニ歸リテ▣▣ヲ手ニス
ルヲ物憂ク思レテ省家ノ念殆ント絶ユルモ
ノアリト云ヘリ又事ノ起リシヨリ已ニ二ケ月人
員モ亦タ多數ノコトナレハ▣レ設營ノ近傍ハ自
然物賣リ商估▣ノ集合スル處トナリ飮食店
ヨリ雜貨店ノ類俄カニ市ヲ作シ甚タ盛ン
ナル景況ナリト云フ大凡ソ此ノ如クナレハ日日牛
馬ヲ侶トシ隴松ニ歲月ヲ送リ崇テ桑事ニ 慣レサル土民ノ常トシテ日月ヲ忘シテ野營
ニ嬉遊スルモ亦怪ムニ足ラサルナリ

就中未タ久カラスシテ瓦解ノ運ニ至ラント思
ヒシ局外者ヲシテ案外ナラシメタルハ首領ノ巧
慧ナル手段ヲ運ラレタルニアリ卽チ首領トハ
全明叔鄭益瑞ト全某ノ三人ナリ明叔上位
ニ居リ二人之ニ佐タルモノヽ如シ三人カ平生ヲ
聞クニ屑屑トシテ▣ヲ治メス明叔ハ現ニ東
學黨ノ一人ニシテ▣黨中ニテモ稱聲望ア
ルモノナリ又他ノ二人ハ土地ノ士分ニシテ鄭ハ文
事アリ三人共ニ幼少ヨリノ親友ニシテ事
ヲ起スノ始メヨリ大小ノ事皆比三個ノ手中
ニ屬ス然レトモ彼等ハ責任ヲ自身ノミニ限ラ シメス各村ノ洞長執綱等ヲシテ悉ク同樣ノ
責任ヲ負ハシメタリ故ニ一朝事破ルニ方テハ
十八區面ノ洞長執綱ハ卽チ同樣ノ責ヲ負フ
ヲ以テ百姓等モ▣▣ニ退散シ或ハ嫌厭ヲ
生スル▣ニ至ラスシテ團結モ一屬堅固ナル
趣ナリ

監營ヨリ兵丁五十人ヲ▣▣シテ陣營ノ
中ニ込ミ入ラシメ隙ヲ窺フテ三人ヲ捉捕セ
ントシタリシカ卽チ彼等ノ爲メニ看破セラ
レテ五十人共ニ擒ニセラレタリ此ノ爭ノ中一人
ノ兵ハ卽死之ヲ率▣ルモノ又殺戮セラレタリ
トノ噂アリ此時ヨリ四方ノ出入ヲ嚴ニシ
東津江ノ渡シヲ止メ郡內ノ要處ハ凡テ彼等 ノ手ニ扼セラレ旗人ト雖モ見當リ次第ニ陣營
ニ引入レ兵丁ニ使役スト云フ

監營ハ一度ノ失敗ニ因テ今度ハ兵三百ヲ
井邑ニ埋伏シ近在九郡ノ兵ヲ嘯集シ
今日午時迠ニ井邑ニ集合ストノ噂アリ
之ニ▣メルハ三名ノ盜捕使ニシテ郡兵ハ郡
ノ營將引率スト云フ

昨日來茁浦ヘ向テ逃走シ來リタル者數
人アリ

民軍ノ首領ハ嚮者密ニ五十八▣ノ東學黨
ニ向テ檄ヲ飛シタリ其目的ハ▣ニ一郡ノ
利害ニ就テノミナラス先ツ轉運營ヲ破壞
シ進ンテ弊政ヲ釐革スルニアリト云フ兵餉ハ ▣先ツ▣倉ノ稅庫ヲ奪ヒ之ニ充ツトノ事ナリ
人心恟恟米商等モ隨テ減少ス予ハ過日使
ヲ忠淸道迠發シタリシカ已ニ歸期ヲ過
シト雖モ歸リ來ラス若シヤ中途阻絶ニ
▣テ遷近スルニアラサルカヲ慮レリ

二月二十五日從來民軍ハ馬首驛ニ設營シタ
リシカ攻守勢ニ利ナラサルモノアリ白山ト稱ス
ル處ニ移轉セリト云フ白山ハ朝鮮祕訣ニ上
リタル程ノ地ニテ三方江流ニ繞ラレ一面
僅カニ人馬ヲ通ス近傍ハ有名ナル平野
ニシテ白山獨リ高シ訣ニ曰ク古阜白山
ハ可活萬民トナリ

▣軍扶安府ヲ襲フトノ風聞アリ警衛 嚴重▣▣晝夜寢食ヲ安ンセス

今回ノ變亂ニ關リ不意ノ境偉ヲ得タルハ扶
安ノ土民ナリ事ノ起リシヨリ以來▣ニ民心
ヲ▣セント▣▣稅納ノ催促ヲ止メ訟廷ヲ止メ
唯是民人ニ媚ヒタルモノヽ如シ

前日來盜捕使下向營將九郡ノ兵ヲ率ヒテ
民軍ヲ討ストノ說アリシハ全ク虛報ナリシ其
後未▣古阜新官下任シ民軍ノ屯營ニ書
ヲ遣シ新ニ命ヲ受ケテ此地ニ莅ム意ハ休
養セ專ラナリ自今以後卿等ノ一覺ト此土
ノ施政ヲ議セントスト▣テ民軍ノ中ヨリ吏部
以下ノ重ナルモノヲ▣▣センコトヲ▣セリト云
フ完營監司ハ此際訟獄等ノ政事ヲ止メ 本營ヨリ▣テ某廳ニ居ルト云フ監使昨冬
ノ上書ニ治下ノ諸官中古阜郡守ノ治蹟最
モ見ルヘキモノアリトテ大ニ趙丙甲ヲ稱贊
セシ趣キナリシカ(之ニハ別ニ故アリ)今度ノ失
政ニ由テ全ク政府ヲ欺キタル狀態ナル▣
ヲ可成內密ニ鎭壓セントノ意ヨリ先頃ノ
兵士モ政府ノ許可ヲ得ルニアラスシテ派遣
シタル由ナルカ却テ民軍ノ爲メニ擒ニセラレ
上ニ向テハ漫リニ威武ヲ瀆カシタル姿トナリ
大窘窮ノ樣子ナリ於是民軍ハ▣モ遷近
丙甲ノ罪蹟ク理セスシハ直ニ京城ニ至リ稟
▣スル處アラントテ監司ヲ脅迫トノコトナリ

▣▣▣▣▣軍▣▣▣▣▣▣▣ヲ破壞ス ▣▣▣▣如何▣▣▣糧食▣▣▣▣セサル▣ヲ聞ク
ニ全ク趙丙甲ノ所得米穀ヲ奪ヒ之ニ充テ居
ルトノコトナリ未タ二ケ月ハ充分ニ保ツヘシト云フ

燈火將滅トシテ光暉ノ一度ヒ熾ンナルヲ見
ル彼等カ形狀實ニ之ヲ歡スルニアラサルカト
ハ三月十五日ノ頃余カ所懷ナリシ一熾一滅ノ
風評裏ニ彼等ハ同月十三日全ク解散セリ
都將委▣▣▣▣携ヘテ逃亡シ▣▣或ハ捕
ヘラシ卒伍ハ農ニ歸シ何人モ戡定セシヲ
視セリ然ルニ飛報天外ヨリ來レリ時ハ同月
二十日此日德興里ノ市軍歸リ來リ曰ク
東學軍數萬茂長ノ屈峙ヲ踰ヘ興德ヲ
過キタリト翌日ハ高敞ニ集リ次第ニ西上シ 一軍ハ井邑ヨリ古阜ニ入リ一軍ハ沙浦ヲ過
キ茁浦ニ來レリ二十三日余ハ朝來三四ノ韓人ト
東郊ニ散策シ正午頃歸途ニ就キ市外ノ一
酒舖ノ前ニ來レル頃數百ノ韓人集合セル
ヲ見ル何ノ所以ヲ知ラス一人ニ向テ問ヘハ東學
黨數萬將ニ此地ヲ過キントシ先導已ニ達セ
リト中途市ノ客主ノ使喚予カ早歸ヲ促カシ
來レリ門外ニ至レハ老客主倉皇袖ヲ扣ヘテ早
ク何處ニカ避ケンコトヲ勸ム然レトモ余ハ彼レカ
愕ケル程ニマテ余ノ身上ニ危難ノ來ラレトハ思
量セサルコトニシアレハ却テ老主ヲ慰サメ暫時
金廊ニ▣ヒ居タリシニ間モナク砲聲ヲ聞ク人
▣門外ニ出ツ余モ亦出テ佇望スル二十四五丁 余ヲ▣タル東郊ヲ通スル大路ヨリ旗旄翩
翩盛氣方リヲ拂フテ推寄セ來レリ左右
ノ人人頻リニ余ヲ危ム余モ其意ニ從ヒ暫
ク余カ伴ヒ來レル一船ニ避ケ蓬窓ヨリ之ヲ
望メハ斥候旗アリ靑紅白黃ノ區別アリテ
上下ニ振リ左右ニ▣サレ或ハ急或ハ緩一軍
ノ進退復タ之ニ應ス彼等カ携フル兵器ハ
竹槍アリ弓箭アリ鎗アリ而シテ銃ハ舊製
ノ火繩筒アリ

此際余カ性命ノ余カ所爲ニ由リテハ甚タ危カ
リシコトアリ何者ノ言ニ據リシカ端シナク日本
人精銃ノ劍アリ又一個ノ六穴砲アリトノコト都
將ノ聞ク處トナリ日本人ヲ呼ヒ來レトテ余カ 宿處ニ數十名亂入シ頻リニ余ヲ求ム余幸ニ不在
ナリシヲ以テ老客主及余カ友ノ一人辛玄溪等
頻リニ其浮說ナルヲ辨解シ如斯ノ使令三回
ニ及ンテ止メタリト云フ

先日松都ノ民亂ニ一ノ我國人橫死ノ消息ヲ得
テ頃來孤客ノ較ヤ寒心シツヽアル底ニ一回ノ民
亂ニ向リテ其目的ヲ達セス更ニ今回ノ擧アルヲ
知リ且ツ彼等ノ風俗ニ於テ外侮心ノ熾ンナルコト
殆ント我元治慶應間ノ浮浪ト均シキモノアル
ヲ知ルモノニ於テ如何ソ內心平ナルヲ得ン況ンヤ
余カ從兄ノ甲申ノ京變ニ橫死シ悲慘危懼
ノ念▣余カ衷心ヲ去ラサルモノアルニ於テヲヤ

彼等ハ晝餐ノ後整ル古阜ニ向ヘリ發スルニ臨 ミ一ノ檄文▣ノモノヲ四方ノ出口ニ貼付セリ四ケ
弊政ノ釐革要ハ我大祖革新ノ治ニ復セハ
止ムト文頗ル長シ都將ハ未タ丁年ニモ至ラサル
一小丈夫ナリト云フ

此日ヨリ風評次第ニ繁ク或ハ曰ク後軍期日ナ
ラスシテ至ルト此時通過セシ人員三千余人
二十五日東學軍ノ誤古阜ノ軍庫ヲ掠略シ過
テ火藥ニ火發シ數十ノ負傷者ト卽死者ヲ
出セリ此日濟州ノ同黨沙浦ニ上陸ス

民心恟恟此際監營ヨリ募軍ノ令下リ壯
年者ノ之ニ應スル者無數

二十七日東學軍ノ後陣西上ストノ風評專
ラナリ予ハ兩三日前來着シタル松村ヲ伴ヒ 邊山ノ景▣ヲ探ル蓋シ意ハ彼レニ在リ

四月二日歸寓杲シテ廿九日ニハ同黨ノ過キル
アリテ非常ニ紛擾セリト云フ

京軍長浦江口ノ群倉ヨリ上陸シ全營ト
相通セリトノ說アリ東學軍古阜ヨリ出發
シ全營ト相距ル里許ノ處ニ對陣セル由ノ說ヲ
聞ク

四月四日一軍大ニ東津江ヲ渡リテ扶安ニ入レリ
同日京軍古阜ニ入レリ

四月五日昨夕不意ニ全營ヨリ派遣セル一軍
此地ニ入ル炮聲兩三發蓋シ賊ノ有無ヲ偵察
スルナラン土民ノ遁走スル狀筆紙ノ外ニアリ予
モ松村ヲ伴ヒ船ヘ赴ク此夜船人ノ服裝ヲナシ 上陸ス市街閴トシテ眞ニ軍營ノ裡ニアル
ノ思ヲナサシム三三五五影暗キ處ニ居ルモノハ土人
ノ軍狀ヲ問答スルニアラスレハ人家ヲ携ヘテ避ク
ヘキノ地ヲ搜スルナラレ煹火ノ程遠カラサル山丘
ヲ涉リテ明滅スルハ硝兵ノ正ニ勇ヲ鼓シテ風
聲鶴唳ト戰ヒツヽアルノ處ナラン弦月曨曨ト
シテ草木將ニ眠ラレトスルノ頃獨步船ニ歸
レハ松村猶未眠

四月六日東學軍ノ誤ノ落武者數人捕ヘラル此夜此
地駐在ノ全軍其數三百余北方ヘ向テ出
發ス

七日朝潰走セル兵ノ頻リニ哀ヲ乞フテ舟ヲ求
ムルアリ繫泊ノ舟吾先キト碇ヲ拔ヒテ發 港スルヲ見ル間モナク予カ乘ル處ノ舟ニモ來レリ
最初ハ何軍ナルヲ知ラス而シテ如何ニシテ
如此キカヲ知ラス或ハ郊丘ヲ逸走スルモノ或
ハ小徑ヨリ走セ來ルモノ其數二百余ニ上レリ
幾時ナラスシテ予カ友ノ一人ハ予カ來訪シ事
ノ次第ヲ先ケ曰ク昨夜此地ヲ距ル三里許ノ古
阜黃土山ニ於テ激戰アリ身▣▣▣遁カルモ
メサリト京軍大敗シ死傷算ナク新來ノ亡卒
僅カニ身ヲ以テ遁カルモノナリト其戰狀ヲ聞クニ

四月四日東津江ヲ涉リテ扶安城ヲ陷イレ據リ
テ以テ敵ヲ待チツヽアリシ東學軍ハ扶安ノ地
形不利ナルヲ以テ全軍ヲ古阜ニ移シ羽翼
▣▣ヲ以テ此地茁浦ニ駐在スルノ京軍ト全 營トノ通路ヲ切斷セリ

五日京軍ハ李光陽(監司ノ妻弟)李在奕
宋鳳益等營兵二百五十人ヲ中堅トシ▣▣
兵無慮七八千人ヲ引率シ之ト相對陣シ令
ヲ傳ヘテ茁浦ノ京軍ト共ニ之ヲ合擊セ
シコトヲ謀ル

六日夜茁浦ノ軍ハ戰線ニ到達セリ一發ノ
號砲ト共ニ戰場ハ開ケリ夜將サニ▣ク陰沈
甚タ辨シ易カラス怪シヘキハ敵陣ノ應砲
遲緩ニシテ十發中僅ニ一發ヲ應ス京軍
突進一擧假城(此時東學軍藁ヲ以
テ假城ヲ造ル)ニ入ルヤ敵ハ旣ニ前後ニアリ彈
丸雨ノ如ク李光陽以下ノ將士多クハ斃レ死 傷算ナシ敗兵四散空シク黃土阜丘ニ鮮
血ノ漂フヲ見ル而シテ此地ニ遁レ來リタル敗兵
等ハ其朝偶然ニモ稅米積載ノ爲メ來着
シタル朝鮮汽船ニ助ケラレ其日仁川ヘ向
テ發セリ

四月八日東學軍興德ヲ過ク府內ヨリ焚火
サレタル人數一萬八千人ト號ス高敞ヲ經テ
羅州ニ入ル

四月十日京軍高敞ニ進軍セリトノ說アリ
民心恟恟家ヲ携ヘテ流離スルモノ多シ

四月十一日防穀令出ツ

今后ノ景況ハ更ニ他日ニ讓ル