大臣[手決]
次官[手決]

明治二十七年十月三十一日起草

政務局長高明
在朝鮮
井上公使 外務大臣

機密

東學黨騷亂鎭定ノ爲メ廣島ヨリ
兵員派遣之義ニ付テサヘ追追電信ヲ以テ
申進候通リ今般ノ派遣兵六中隊ノ內三中
隊ハ旣ニ本月三十日▣▣ヨリ出發其他ハ 次ノ便船ニテ渡韓ノ筈ニ有之候該兵到着シ
上ハ申迠モ無之候而尤寬猛其宜ニ悅ヒ一
日モ速ニ匪徒ヲ制壓シ騷亂鎭靜ニ到
リ候樣十分御配慮想心致候而シテ東學
黨騷亂ヲ機トシ京城在留英國公使カ
隱謀ヲ企テ居ルノ疑有之候旨電信ヲ以テ
御申越シ義有之候處頃日英意 向ニ關シテハ前便私信ヲ以テ申進候ニ付
御承知相成候義ト存候唯タ此際油斷
ナリ注意スヘキハ露國ノ擧動發ニ有之
候御承知ノ通リ當初同國政府ハ今回ノ
事件ニ付土地侵略ノ目的ヲ有之居ルカノ
疑念ヲ抱キタル事ト相見エ去ル七月中在本
邦露公使ヨリ公然ノ書面ヲ以テ帝國カ朝鮮 ニ對シ要求スル所ノ讓尖ニシテ苟モ朝鮮
カ獨立國トシテ各國ト締結シタル條約ニ違
反スル事アルトキハ之ヲ有效ト認メサル却テ申越シ
八月十七日ニ付▣▣▣西公使ノ電報ニ▣ンハ▣淸交戰▣露國
ニシテ露ノ境界ハ露國ハ敢
テ干涉ヲ試ムル事ナカルヘシトノ意ヲ露國亞細亞局長
ヨリ日公使ニ告ケタル趣ニ有之候我政府ニ於テハ 露國黑龍江知事ヨリ日本兵
ハ豆滿江近傍ニ上陸スルノ計畵アリ
ト本國政府ヘ申報シタル由ニテ其事ノ眞
僞露公使ヨリ問合セ有之我ヨリハ直ニ其 事ノ無根ナルヲ辨シ置候得共畢竟是
尙疑ノ起ルハ彼ニ於テ常ニ安セサル處アル
ニ▣事ト被存候仍テ東學黨ノ騷亂ニ
シテ朝鮮ノ南部卽チ全羅慶尙忠淸
等ノ諸道ニ止ユル間ハ露政府干涉ニ恐レ無
之ト存候得共若シ此亂咸鏡道等ニ蔓延
シ從テ露境ニ近ク事アラハ其時ヨリ彼ニ 出兵ノ好口實ヲ共ヘ可申且ツ其際若
シ我兵カ匪徒鎭壓ニ從事スル事
アラハ或ハ露兵ト意外ノ衝突ヲ起ス事
之レアルモ計ラレス假令ヘ其極點ニ至ラサル
迠モ面倒ナル交涉ヲ惹起スノ恐レ絶
無トハ▣申候就テ▣此際ノ我ノ最モ注
意スヘキハ騷亂ヲ速ニ鎭定シテ其餘波 ヲ北部ニ及ハシメサル一事ニ有之候然レトモ
若シ不幸ニシテ幾分カ北部殊ニ露境
近傍ニ蔓延スル場合ニ於テハ我ハ間接
ノ援助ヲ爲スニ止メ表面ハ朝鮮兵ノミ
ヲ以テ征討ノ任ニ當ラシメヨリ外無之候得共
朝鮮兵ヲシテ單獨ニ匪徒鎭壓ノ
效ヲ遂ケシタルコトハ旣往ノ實驗ニ徵シ甚タ 無覺束候ニ付要ハ事變ノ北部ニ移ラ
サル樣飽迠モ未然ニ防止スルノ一事ニ有之
候此邊素ヨリ御如才無之事ニ候得共
御含迄ニカ進候敬具