4月26日 ○夏の旅行
客舍には「ピンデー」、蚊、蝨、蚤、多くして室內 ビンデーは床蟲なり一度咬るれば一週間傷む、
○官人は皆盜賊
或る外國人韓人に向ひて、貴邦の官人は恣に人民 彼等韓人は此の如き慘澹たる地獄に在るも、敢て 門閥政事と藩閥政事と其名異なれとも其揆は則 ○渾沌未判
彼の邦には定まりたる國旗なきものの如し、釜山 朝鮮は猶ほ腐れ玉子の如し、旣に孵化力なし焉 ○主人縛せらる
余、慶尙道草溪栗旨にありける時、三四の官人入 主人を縛する一演劇の價僅に一貫文、韓人知ら ○十里標
內地市街村落の盡くる處に不思議なる人形を彫刻
朝鮮雜記
に寢るを得す、されば夏時には客舍の主人も室內
には案內せず、內庭或は路上に蓆を布き、木枕を
持來りて其上に寢さしむ、されど幾群となく襲來
て安眠を買ふ能はず、枯草を焚きて蚊やりをなせ
ば、煙の絶えぬ中こそ蚊も集まらざれ、己れも亦
煙に咽びて寐入ること能はず、漸くにして煙絶え
しと思へば、間もなく群蚊皷を鳴らして耳邊を掠
め、終夜ブンブンして束の間もまどろむことを得
ず、加ふるに蒼天の下に露宿することなれば、夜
露降り來りて衣服を濕すなど、其苦しきこと恰も
深山幽谷に遊んで歸路を失し、虎豹の嘯聲を聞き
ながら身を橫へ居るが如し、宿かさぬ人のつれな
さに朧月に伏し、行き暮れて花をあるじと眺めた
るは價千金の春宵なれど、是は三伏の夏の夜にし
て、宿はあれども宿ならず主人はあれどもあるじ
ならず、露を褥に夜をあかすこそ、いと果敢なけ
れ、
の財貨を奪去るを見れば、官人は寧ろ公盜と稱す
べきものにあらずや、然り官人の人民を苦しむる
こと私盜に勝る萬萬なり、然らば何が故に是等の
官人を殺して、國家の害を除かんことを謀らざる
や、さればなり然か思はざるにあらざれども、今
の官人は盜賊ならざるはなし、假令一身を犧牲と
して一官人を殺し得るも、其後を襲ふの官人亦盜
賊なるを奈何せんと、嗚呼彼等の境遇實に憐むべ
し、千の「ゲスレル」ありとも「テル」を以て自任す
るもの一人を出さば、官人焉ぞ其慾を逞うするを
得んや、
意とすることなく、傍人をして却て酸鼻の情を深
からしめ、惻隱の念を厚からしむるもの、古來の
遺傳性の因て然らしむるものゝ如し、嗚呼彼等無
氣力の韓人輩は、所謂泣く子と地頭とには勝れぬ
ものと、自暴自棄して悲慘の境に呻吟するものか、
ち一、其弊も亦一、共に是れ志士の奮發一番を
要す可き時節、
近邊にては我邦を學んで國王の萬壽節には、
の如き旗を建て、又船舶にも同樣なる旗を翻へす
を見る、是れ定めて彼の邦の國旗の濫觴たらんか、
旗章は天地未判の意に取るといふ、元來彼の邦は
渾沌の圖を尙ふ國と見え地方官衙の門には、
弓射る的におなじ
の如き圖を畵くを常とす嗚呼彼の邦堂堂四千年の
古國を以て、何ぞ渾沌未判を尙ふをなす今日文運
の漸漸退步して遂に渾沌蒙昧の境に終らんとする
の傾向あるもの豈偶然ならんや、余曾て見る典圈
局の新造せんとする所の銀貨の雛形に梅花を鑄出
せるを、謂らく一陽來復朝鮮は是より開けむと、
今や典圈局の事業は眠れり、彼れは遂に渾沌の間
に終らんとするか、憐むべし渾沌圖、
ぞ自ら殼を破りて泥骨骨と唱ふの曉を得ん
來りて余が宿の主人を縛し去らんとせり、之を見
て邑の者集ひ來り、官人の前に首を下け腰を屈め、
ひたすら主人の爲に赦免を請ひけるも、官人は聞
入れず、殊の外喧しかりける、余は何事を以て斯
く罪を得たるにやと怪みなからまもり居けるに、
客舍の女房錢文一貫文ばかり携出て罪を謝しけれ
ば官人は忽ち面を和け、主人の縛を解き莞爾とし
て錢文を荷ふて立ち去りぬ、後に余其理由を聞き
しに草溪郡守此あたりを通行しけるとき、客舍の
主人煙管を口にして在りつることの不遜なりとて、
斯くは縛せられたりとなむ、彼の女房の官人に捧
けし一貫文は賄賂なりしといふ、
ずや我邦の俳優團十郞は、一日數百圓を取るこ
とを、
したる標木の立ちあるを見る、是れ彼れ邦の十里
標にて長承と名くるものなり、以前は十里(凡そ
我一里)ことに之を立て旅人に便にせしといふ、
長承とは昔時の惡人の名にして、道傍に曝し首と
なりたるなり思付きて路標となしたるなりとぞ、
現今も『去京幾
ものあれど、多くは『天下逐鬼大將軍』『地下逐鬼女
將軍』と書したるものを配して逐疫の神體となす