4月29日 ○俚謠
彼の邦の俚謠に、情人の別れ去る後姿を打眺め、 其一
聲たてゝよばばよそめのはつかしや、 其二
聲をあけなばわらはれん、 ○門閭に旌す
孝子、忠臣、烈婦、を門閭に旌するにも、其家門 ○飴賣と下馱直し
熊本に朝鮮飴といふものあり、されど彼の邦には 京城內に下馱直しを職とするものあり、其狀石油 ○一擧兩得
虎、豹、熊、鹿、鶴、鷺、米穀、牛皮、人蔘、魚類、是等卽 ○朝鮮の古器物
或人韓廷の名望家某に問ふて曰く、貴邦國初より
朝鮮雜記
纏綿の情抑ゆる能はず、さりとても聲揚けて呼は
ゞ人にや嘲けられんと、手擧けて招けども、人は
不自由な者にて後頂に目のなき悲しさ、戀人に屆
かぬことの奈何にせんといふ意を、おもしろく謠
ひふしたるものあり、古雅甚だ愛するに堪へたり
韓人も亦情趣を解するものといふべし、座間友人
の其意を譯出せるもの二あり、
甲斐なきことゝ知りつゝも、
手をもてまねくうしろ影、
手もてまねけど甲斐ぞなき、
アレもとかしや何とせん、
しらずにゆくかうしろかげ、
に幅一尺五六寸、長さ四五尺の朱塗の額に、
孝子某之閭、 光緖某年旌、
と橫書したるを揚けしめ、以て衆庶の龜鑑となす
熊本にある如き飴なく、却て我邦固有の飴に同じ
又我邦の飴賣は所謂唐人喇叭を吹くを常とすれど
彼の邦の飴賣は箱に飴を入れ紐を以て前に釣り下
け大鋏を手にしてカチリカチリと響かせつゝ、飴や
飴やと呼ひ步るくなり、
箱の如きに紐を付けたるをば肩より下け、竹の編
笠を被り何事がわからざることを呼んて街上を往
來す、下馱直し直しと呼ふにやあらん、宛然我邦
の「デイデイ」に彷彿たり、韓人穿つ所の下馱は右
の如し
ち朝鮮の産物、而して一として天産ならざるはな
し、我邦人は朝鮮を以て、我國上古文化の由來せ
し國なりと思はゞ、是等の天産物以外に、工業的
の物産を輸出せしむるの方策を授くる俠氣ある者
無きか、蓋し彼の國に在りては、人夫の賃銀甚た
低廉なるを以て、彼を使役して工事に當らしめば
其結果彼を利し、又我を益す、卽ち一擧兩得、
今に至るまて上下四千年、旣に三韓の代の如きは
文運蔚興、美術工藝、燦然として見るへきもの多
し、弊邦上代文化の源は、多く資を貴邦に藉る、
其間の古器巧藝の物、今猶ほ現存するもの必す多
かるべし、願くは縱覽するを得ん、某苦笑對て曰
く、聞く貴邦の首都に博物館なるものあり、古今
東西の珍物奇器、一として網羅蒐集せざるなしと
請ふ去て之を訪へ、弊邦の古器遺物一もあらざる
なけん、蓋し文祿征韓の役、我軍八道を蹂躪し、
珍異の物悉く我軍の掠奪する所となれり、某の言
深く其れを恨みけるなり、