5月8日 ○武藝
彼の邦の武藝中、現今存在するものは特り弓術の ○旱魃
朝鮮の山岳は多く禿赭にして樹木なければ、いさ されば旱魃打ちつゝきて殆んと收穫なきときは、 昨年は小歉歲なりき、然れども亦此現象を見る、 ○農具
彼の農具は、鎌、鋤籾摺臼、箕の外一物もなし、鋤
朝鮮雜記
み、刀鎗劍戟は無きにあらざれども、平日其練習
をなすものとてなし、弓は半弓にして矢の長さは
我邦のものと異ならずして的は一間四方ばかりの
板に「本紙百二十八號の朝鮮雜記中に揭けし如き
ものを」書き、百步以外の距離を測りて之を射るな
り、每年試驗ありて善く命中するものは、先達の
稱を得るなり、又鐵砲の射的もあれど、弓の如く
に流行せず、弓の流行は蓋し以て贏輸を決する一
の賭博なるが故に、彼の邦人の嗜好に投するなる
べし、
さかの旱天にも水源忽ち枯れ、田地龜裂して稻苗
赤色を呈し、百姓をして頗る苦慮煩憂せしむ、我
邦には高地の水田に灌漑するには水車を用ふるが
故に、旱魃の時には其便に賴ること多けれども、
彼の邦には水車とてあらざれば、僅に杓子を以て
水を汲み上く、其不便實に少しとせず、要するに
彼の邦は水車を發明する智識なき憫れなる人間の
掃き溜、
韓人は、兒女を富者或ひは支那人に賣りて下人
たらしめ、僅かに米麥を購ふといふ、少しく貯蓄
あるものは其倉廩を發き、貧人盂を携へて米麥に
代んことを來り乞へば、其盂を以て米麥を量り與
へ、而して其盂を己れに取るなり、以て非常の巨
利を得といふ、盂は眞鍮製にして其大さ種種なれ
とも五合以上より五升位まて盛るものあるなり、
凶年にして衆民飢に苦しみ、陸續富家の門に至り
て一飯の資を乞ふの貧人、瘦頰骨出て、破衣亂髮、
行步蹣跚、僅に杖に倚りて身を支ふ、慘澹たる光
景は實に見るに忍ひさるなり、
松籟子曰く予曾て彼邦人に問ふ、貴邦の山岳何
が故に樹木を植えさるやと、答て曰く虎害を恐
るのみと、虎害或は在らん然れども是れ遁辭の
み、
は全く我邦のものと製作を同くし、牛をして之を
牽かしむ、若し貧にして牛を蓄ふの餘資なきもの
は牛の代りに三四の人をして之を牽かしむ、籾摺
臼は圓木の徑一尺許にして、高さ二尺許なるもの
二個より成る、其製作大略挽臼と同し、大農は之
を用ふれとも、小農は總へて臼にて杵き籾殼を去
るなり、又稻莖をこきて籾となすには、二本の小
竹を左手に握り右手に二三莖の稻を採り、之をす
ごきて籾となすなり、麥を打つ狀は本邦に異なら
ざれども其麥を殼より分つには、風上に立ちて高
く箕し、風もて其殼を吹き飛はさしむるなり、