5月30日 ○萬國一
韓人其衣冠を以て萬國一と稱す、然り其風致ある ○井底の蛙
京城英國領事館の被雇韓人某、曾て余に語て曰く ○古瓦と土偶
我邦古瓦の現存するものを見るに、盡く布目瓦に 釜山と東萊府との途中、金井山の山腹に一小刹あ ○便尿
尿は穢きものと知れど、彼の邦人は之を湯或は水 ○戴帽令
在京城の我居留地人、外出するには必ず帽子を戴 ○客主 政府の特許を得て、一地方の物産を賣捌くを都客
朝鮮雜記 (續)
は恐らくは萬國一ならん、然れども袖長く笠大に
して、行止に便ならざるも亦恐らくは萬國一なら
ん、彼の邦人の擧動優柔にして絶えて活潑ならざ
るの原因は此萬國一の衣服預つて力あるが如し。
韓人の衣冠は誠に美なり、然れども其家屋の蟹居
燕巢の如くなる、亦誠に醜なり、殆んと豚小屋と
も評すべし、衣冠の美と家屋の醜とを比較し來れ
ば、霄壤雲泥の差を見る、衣冠果して彼の人物
に適せるか、將た家屋か。
英人煙草を喫すること日に五十兩に過く、夫れ五
十兩は一家數人の口を糊すべきの資なり、其驕奢
思ふべし、語に曰く驕るものは久しからずと、英
國の亡滅それ近きにあらんか、噫噫彼貧弱の朝鮮
に生れ、糟糠且つ飽く能はざるの生活に追はれ、
他に桂薪玉炊の富者あるを知らず、己を以て他を
推し、一日五十兩の煙草價を以て驕奢の極と叫ぶ
井底の痴蛙特に一笑に附すべきなり、彼の邦の五
十兩は我邦の錢一圓五十錢なるのみ、亦何ぞ驕奢
といふに足らんや。
非らさるはなし、彼の邦の瓦は新古を間はず、總
て布目瓦なり瓦の製造は彼より我に渡來して、爾
後其法を一變せるものなるべし。
り、唐の貞觀年中の創立にかゝる、爾後幾回の回
祿を經て、昔時の狀態再び見るべからずと雖も、猶
ほ當時美術の發達を想起すべし、一小土偶の殘缺
して山神廟側に存するを見たり、土偶は結跏趺坐
せる老僧の像にして、鬚眉頰襞頗る神を得たるも
のなり。
の如くに心得て、穢しとも思はざるは亦彼の邦人
の、不潔なる人種なりといふ、一の例證となすに
足らん、全く小便にて顔を洗ふを見しことあり、曰
く肌膚を艶ならしむと、されば室內に眞鍮製の
溺器を置き、主客對座の席に於ても、之を斥く
ることとてはなく、便通を催すときは直に之を取
つて溺し、又傍に置く、假令習慣の然らしむる所
なりといふも、不潔甚しといふべし、又婦女が尿
甁を頭上に載せて、田畑へ赴くを見るは敢て珍ら
しきことにあらず、其陰部を洗ふには必ず小便を
以てすといふ、是れ梅毒等の傳染を防かんが爲な
りと。
かざるを得ず、若し之を犯すあれば罰金五十錢を
徵す、但し路傍に放尿するも問ふ所なきなり、亦
以て朝鮮京城の風俗を知るべし。
主と稱し、又特許なきも勝手に間屋を營むものを
客主といふ、都客主の在る地方にては、客主は明
りに營業するを得ず、都客主に賄賂を贈り若しく
は稅金を納れて、其許可を受くるを法とす、され
ばは都客主の勢甚强く、例令ば其地方にて産する牛
皮を買入れんとする時に、一枚二百文づゝにて賣
れと命ずれば、牛皮の持主は止むを得ず、其價を
以て賣らざるを得ず、若し恣まゝに他の客主に賣
渡すことあるときは、直に其品を沒收し去るなり、故
に持主なるものは他の地方に持去て賣却せんとす
れば、運搬の不便なる爲め費用倒れとなるが故に
壓制とは知りながらも唯唯諾諾の境遇に滿足せざ
るべからざるなり、其狀恰も我邦の紳商共が官威
を藉りて、細民の財を奪ふに似たるものあり。