6月2日 ○共同的精神
堤防事業に限らず、何事業にても同人共同して、 ○郊外の游獵
樹木葉を落し、霜風枝を鳴らすの時、銃を肩にし ○武官
武官とは名のみにして、孫吳の素讀もなし得ず、 武官の禮服は胸背に虎を繡す、又甲胃 ○言語と文章
言語は八道到る處總て同じ、唯處によりて語調の 文章の種類に數種あること、殆んと我邦の如し、 追告 昨日の朝鮮雜記欄內に揭けたるは仁川市
朝鮮雜記 (續)
其事業を大成する等の事は、到底彼の邦人に望む
べからず、道路の不修理、衛生の不行屆の如きも
全く共同的精神に缺ぐるの結果なり、されば如何
に利益ある事業にても箇箇人人、小資本を以て小
刀細工的に企圖する癖性あるを以て、安東布、花
筵、扇子、團扇等の特異優等の産物あるにもかゝ
はらず、供給は常に需用の多きに似ず、廣く海外
に販路を開かんとするの希望なきを以て、商工業
は依然として發達の域に進まず、國家亦常に貧弱
なるは全く共同的精神なきに因らずんはあらず。
去つて郊外に遊ふ、蒼天に舞ふものは鶴鷺、碧水
に泳くものは鴻雁、雉は跫音に驚て前山に飛び鳩
は落穗に飽て樹梢に歸る、鳥の多きは蓋し彼の邦
の特有なり、京城を去る二里、楊花渡、釜山を去る
二里、巖弓、共に是れ我邦居留地人の好むて遊獵に
赴くの地にして、一は漢山を雲際に望んて漢江を
左にし、一は洛江を隔て、金海の燧臺を指し、風
景佳麗、正大の氣を養ふに足る
武藝とは何事なるかも知らざる兩班が、金錢を政
府に納めて任用されたるものなれば、僉使、水使
兵使、兵馬節度使などいふ、立派なる官名はあれ
ども、其實は府使郡使の類と同じく、唯暴斂を逞
うする虎狼の輩なるのみ、されば武官といふは、
唯文官に對する一の名稱たるに過きずして、敢て
兵卒を率ゐて邦國の守衛をなすにもあらざるなり
近頃朝鮮にて巨文嶋に僉使を置きたりとて、我邦
の諸新聞紙には、いと大袈裟に▣立てたるものも
ありしが、敢て國防上緊要の故にあらずして、多
分賣官の都合上、此に及びしならん、
する時もあるなり、されども平常服は文官と異な
ることなし。
變異、及び訛言の存するものあるのみ、例之ば慶
尙道、全羅道にて、油を「チルム」といふを、京畿道、
忠淸道にては「キルム」といひ、京畿道、忠淸道にて
「オーテガーシヨ」(何處へ行く)といふことを、慶
尙道にては「オーテ、カーヌンギヨ」といふが如し、
然れとも假令咸鏡道の人と全羅道の人と相逢ふこ
とあるも、薩州人と奧州人と相逢ふたるが如き奇
狀を呈することなし、而して八道中最も言語の善
き地は、忠淸道の忠州なりとす、語格整正、話調
穩雅、▣に京城に凌架するものあり、
一、純漢文 二、朝鮮的漢文 三、吏頭文
四、吏頭交り漢文 五、諺文
六、漢字交り諺文
純漢文は我邦に於けるか如く、僅に學者間に行は
るゝのみ、朝鮮的漢文とは恰も我邦の腰越狀の如
き文體なるものにして、官衙の訓令等は總て此文
體を用ふ、諺文は所謂言文一致體の文にして、小
說、傳記、書牘等に用ゐらる、吏頭文は所謂我邦の
萬葉假字文にして、現今其用殆んと無きなり、吏
頭交り漢文は金錢貸借證文、祈請文、又は中流
人士の書牘文に用ゐらる、漢文交り諺文は唯稀に
見るのみ、一般人士の用ゐる所にあらず。
場の圖なり、近く見ゆる葺屋は朝鮮家屋にし
て之につゝきて街區端正、道路坦坦たるもの
は我邦人の居留地なり、