6月5日 ○萬人楔
萬人楔は一種の富籤にして、地方官の公許を得て ○韓人の觸賣
ギツボンをして朝鮮に遊杖に曳かしめしならば、 ○草木
飢饉凶年に處するの活學をなさんとせば、宜しく 彼の邦には杉材なし、最も多きは松、樅なり、山 彼の邦人は美術的感情を欠くを以て、全國到る處 山岳重疊、兀突として其骨を露はし、春水漲淼、 政事的眼光を以て視察すれば、彼の邦人は昏昏と
朝鮮雜記 (續)
加入者を募り、開票して其當票したるものには、
約束の金錢を與ふるものなり、一票の價は處に依
り時に應じて差異あれども、大槪五百文(我七十
五錢)を通例とす、其の五百文を投じて加入せし
者には、番號の付しある切符を渡すなり、彼の邦
人は頗る僥倖心に富むを以て、皆飯粒にて綢をつ
らんとするの妄想を懷き、加入する者大槪五千人
に下らず、其集りたる金額の一割を地方官に獻じ
殘金に一等五百貫、二等は三百貫、三等は三百貫
と階級を立て、開票の當日には世話人なるもの、
一番より賣渡したるまでの票を入れたる箱を携へ
藁掛けしたる開票場へ來り一段高き所へ上り、公
衆の面前に於て票札を振出し、其番號を報道す、
而して其當票したるものは、亦其一割を割て世話
料となすの仕組なり、此萬人楔に加入するものは
獨り韓人のみにあらず、支那人もあり日本人もあ
り、甚だ盛大なるものなり、近頃釜山居留地西町
裏に萬人楔開票場建設せられたり、此萬人楔は名
こそ韓人の名義を用ゐたれ、其實は純然たる日本
商人の組織せしものゝよしにて、韓人どもが其加
入者を募集するには日本萬人楔の名を以てす、「マ
ニラ」の富籤も面白けれども、是れも亦運ためし
に一度は手を出すも妙なり、
上下四千年の廢墟遺跡に懷古の情を牽き、淊
百萬の貪眠流亡の民に愛憐の心を催し、得意の健
筆を振つて朝鮮衰亡史を著はさんとするの志を起
すなるべし、嗚呼誰か彼の邦に赴きて彼の邦の
爲に一掬の紅淚を濺かざるものあらんや、余の始
めて釜山に渡航するや、直に余の眼光に映し來り
たるものは、韓人の居留地內をふれ賣するの光景
なりき、老幼幾多の韓人或は葱を荷ひ、鷄を肩に
し、魚を提げ、幾度となく居留地を徘徊して、顧
客を求めつゝありき、彼等が我國語にて「鷄ガー
スカ」、「葱ガースカ」と怪しげなる呼聲にてふれ
賣するさまは、痛く余の耳底に徹したり、彼等が
垢染みたる破れたる衣服を着け、分釐の小利を得
んか爲め、顧客の前に叩頭平身するさまは、深く
余か腦裏に印したり、嗚呼亡國の民となること勿
れ、韓人は少數の我か居留地人に化せられて、我
が言語を學び居留地にふれ賣す、韓人は少數の我
か居留地人に勝つこと能はずして商權を我に獻じ
たり、嗚呼亡國の民となるなかに、
朝鮮へ赴くべし、野外の草葉大半其膳羞に上る、
杏、梨、百日紅、黃梅、桃花は是れあり、櫻花、
梅花はこれなし、
林は開墾せられず、咸鏡、平安の二道、稍松樹の
連山を見るのみ、
庭園等は見ること能はず、
輕風細漣を起すの時、微吟緩節時中の人となりて
自ら畵圖の中に配す、是れ我邦に在て得べからざ
るの快樂、
して華胥睡裏に在るもの、眞に憂ふべきとなす、
大隱的眼光を以て視察すれば、閑閑悠悠、眞に桃
源の人なり、