6月9日 ○婚姻
彼の邦の法として同姓嫁娶するを許さず、先づ妻 我邦の俗相娶聘するに寅の日を避忌す蓋し虎は ○惡鳥退治
釜山居留地の中央に、老松鬱蒼たる山あり、龍頭 ○親戚の辨償
彼の邦の習慣として、他に負債あるも辨償の道な ○法庭
罪人を判決し訴訟を審理するには、法庭を公署の ○刑罰
彼邦の刑罰は一に有司の意に由りて行ふものなれ 第一、罪人を地上に伏さしめ、樫の木にて造り 第二、罪人をして臀部を露はさしめ、地上匍伏 第三、罪人の四肢を捻りて、其關節を脫せしむ 第四、斬罪、但し高貴の人には藥を仰かしむ、
第五、手又は頭髮を縛して、天井に釣り上け、
朝鮮雜記 (續)
を娶らんとせば、兩家互に約束を整へ、吉辰を撰
びて新郞は禮服(韓人の禮服は明制の官服なり)を
着け馬に跨り、下人をして後より日和傘をかざゝ
しめ、前後に數十人の從者を隨ふ、先驅のものは
一羽の雁を携へ(若し生きたる雁なきときは木に
て彫みたるものを用ふ)、次に進むものは燈籠をか
つぎ、悠悠として列を成し新婦の家に到り、滯在
すること三日にして歸る、新婦は亦美美しき輿に
打乘り、數多の人に擔がれ、數十の侍女に護衛せ
られて、新郞の家へ來るなり、新婦の乘る輿は虎
の皮を以て覆はる、其輿を擔ぐ所の人數は分限に
よりて多寡あり、余嘗て貴紳の婚禮に二十有餘人
の妙齡の女子が、馬上豐かに前衛して京城をねり
行くを見しことあり、新婦に隨ふの女子は、皆頭
に大いなる假髮を戴く、是れ彼邦の禮式と見えた
り、
千里走つて千里歸るが故なりと、彼邦却つて虎
皮を以て新婦の輿を被ふ、彼我表裏の風俗、
山と呼び、居留地人散策の處となす、領事令して
此山に銃獵するを禁ず、或る日居留地人某山上を
步し、總領事室田義文空氣銃を以て小禽を獵する
に逢ふ、則ち一詰して曰く領事自ら禁を犯すかと
室田氏微笑して曰く、余豈に禁を犯さんや、是れ
惡鳥を退治するなりと、某も亦哄然一笑して去る
きときは父子兄弟代つて償ふの義務あるものとす
兄弟父子にして若し代償すること能はざるときは
其九族中の者をして代償せしむ、故に親戚の間柄
にて一人の道樂者あれば、是れが爲に一族の者は
大なる迷惑を蒙むるものなり、されば我邦人にし
て彼の邦人の債權者たるものは、此習慣を利用し
て貸金を取立て來れり、然るに近頃韓人中にも我
邦の法律を、少しばかり耳にし居るもの出て來て
此習慣の不條理なることを悟り、負債の義務は債
務者一人に限りて、親戚に係累を及ぼすものにあ
らずなどゝ理屈を竝べ立て、我邦人を困らすもの
多しと、慶尙道の密陽府使趙某の如きは、旣に其
配下に布令して、古來の習慣に由て日人の欺く所
となる勿れと訓諭せり、爾來我邦の債權者は、な
かなか迷惑を感ずるなるべし。
庭前に開く、罪人又は訴訟人は、下役人と共に門
側に立ち、門內の合圖を俟ちて、默禮しなから靜
靜と步み行き、下役人の導く處にかゝみ、敢て仰
き見るなし、此時旣に裁判官卽ち公署の長官は、
机に倚りて數多の官人と共に座に在り、其前椽に
は左右二三人の傳令官の如きもの起立す、罪人若
しくは訴訟人の傍には、一間許なる棍棒を持ちた
る下役人起立して扣へ居る、裁判官何事か一句い
ひ終る每に、彼の傳令官らしきものは、左右同音
何やらん高聲に叫ぶ、叫び終れば下役人亦同じく
叫ぶ、斯の如くにして罪人或は訴訟人は判決せら
るゝなり、罪人訴訟被告人其事を白狀せざるとき
は笞杖倂せ下る、而して賄賂を行はざるものは、
無慘にも遂に擊殺さるゝことあり、罪人の入獄費
は總て自辨なりとす、故に半文錢も有せざるもの
は、遂に餓死することを免がれざるなり、然れ
とももし賄賂を獻するときは、如何なる大罪人な
りとも放免せらる、後日上官より詰責せらるゝこ
とあれば、脫獄し去れりといふのみ、腐敗の俗も
亦其極に達したりといふべし。
ば、全國一定の懲罰法なし、今其中の著しき二三
の例を擧くれば、
たる長さ四尺五六寸、厚さ五分許の棒を以て
肉裂け骨碎くるまで、其脛を擊つなり、
せしめ、棍棒を以て擊つ、棍棒の代りに笞を
用ふるもあり、
又罪人の躰軀を力に任せて曲け、緊しく之を
縛す、
之を撻責す、