6月9日
朝鮮の擾亂 (續報)
◎東學黨の巨魁 東學黨の巨魁は或は鄭氏なり
と云ひ或は蔡氏なりと云ひ李氏とか金氏とか各其
想ふ處を傳へ居れとも其何氏に屬し又如何なる人
柄なるやは京城に於ても未だ確かめ得ず多分首領
と稱する程のものは之あらざるべし云云と京城在
留の本邦人より或人の許へ私信の端に書添へたり
◎東學黨の兵器 昨年東學黨の蜂起せし際我か
海軍省の雇となり同黨の根據地へ入込みし某氏の
話に據れば東學黨の兵器はパイプにヒビを生し臺
の毁損せし火繩銃、柄の曲りたる矛、刃のコボレ
たる劍其多數を占め人の生命を絶つには足れとも
劇戰の用に立つべきものにあらず倂し今回は政府
より全州の新式兵に携帶せしめたるスナイドル五
百挺ありて今や同銃は全く同黨の手に歸し又這回
官兵の携帶して戰死者若くは逃遁者の賊の爲めに
奪はれたるマルホ子銃凡そ百五十挺ありと假定す
るも實戰の間に合ふもの彼是千挺もあらんかと云
へり
◎京城の狼狽 朝鮮內國に於ては些細の一揆近
來年年間斷なく各道に起り一集一散常なき有樣な
れは京城在住の韓人は騷亂の噂さ耳に慣れて毫も
驚かず特に京城は神聖にして賊輩の犯すべからざ
る處なりと誇稱する程なれは今度東學黨が全州を
陷れ忠淸道に襲ひ入れりと聞かば京城の人狼狽の
休想ひ遣らると或人は云へり
◎京城は陷落せざるべし 東學黨が此度俄かに
勢を得たることに就き或朝鮮通の云ふ所を聞くに
東學黨が一種の不平黨として何か機會を侍ちつゝ
あることは世人の知る所にして恰も好し去る頃全州
に於て收斂の甚しき爲め百姓一揆起りけれは好機
乘ずべしとて同黨は之に應し四方に散在せるもの
一時に響應雷同したるにぞ百姓一揆と主客處を替
へたるものにて元來韓人は至極臆病なるを以て雷
同し易し故に此度の爭亂も全軍を指揮する首領と
てはなく悉く烏合の兵なれは官軍にして一たひ其
中堅を衝きて目に物觀せなば忽ち瓦解四散すること
疑ひなし去れば京城は重圍を受くることあるも容
易に陷落すまじと