6月13日
朝鮮の擾亂 (續報)
◎國王の避難地 東學黨の軍若し京城に闖入す
ることありとすれば國王は如何なる場所に避難せ
らる可きかと云ふに江華島も以前は其の一箇所な
りしが同嶋に衛兵なきを以て多分は大闕の後方に
位せる北漢山の山城に入らるゝならん同山城は樹
木を伐り拂ひ岩石を削り取り周圍一里に堅固なる
厚塀を築き用水を後山の谿間に取り恰も摺鉢を倒
まにし其上面を穿ちて家屋を建設したるが如き一
見砲臺に髣髴たる城寨なれは兵糧彈藥にして充分
備はりたらんには一夫途に當れば萬卒破り難き要
害の地なりと云ふ
◎兵士の徵發 朝鮮には徵兵法と稱すへきもの
なし其常備兵は我國の舊幕時代の御家人の株を賣
買したる如く一種の株あり多少腕力あるものは容
易に常備兵たるを得べく其試驗の如きは腕力のみ
にて文事を要せずと云ふ尤も一國危急の場合には
壯丁と稱して戰爭に堪ゆる男子を徵發するなり
◎京城の四寨 京城に四寨あり曰く廣州曰く春
川曰く江華島曰く開城府(松都と稱す)にて此四寨
には留守と稱する朝官常に駐在し居る由なるが東
學黨の京城に攻入らんとするには其大手なる前記
四寨中の廣州(京城を距る日本里程五里)竝に之に
竝べる水原を破らされば闖入する能はさる趣にて
此兩寨は要害なかなかに堅固なりと
◎彈藥製造所 元來朝鮮政府が彈藥製造所を春
川(京城を距る日本里程十一里、離宮所在地)に設
置せしは去る明治廿四年のことにして同所は韓廷
の依賴に因り我陸軍省より鮫嶋技師と四名の技手
を送り此人人の設計に依りて廿二年始めて土工を
起し廿四年の曆に竣功して爾來製造を爲しつつあ
りしを昨年四月の事なり朝鮮人のノンキなる例の
長煙管にて火藥の邊に煙を燻らしたるより忽ち發
火して數人の生命と製造所の要部とを燒失したる
にぞ同製造も爲めに中止の姿となりたれば同政府
に於ても大に苦慮する所あり前代理公使兪箕煥氏
の東京駐在中更に我陸軍省に依賴して製造器其他
の買入を企て小石川の砲兵工廠に於て之が製造に
着手し注文通り全く成功せしも兪公使の在任中引
取の運びに至らずして止みたりとの事なれば朝鮮
に於ける彈藥製造は前記製造所の殘部に於て製造
するものと土煙硝と唱ふる舊來の製法に依るもの
との二種にて到底戰用に充つるに足らざるより同
政府は頻りに彈藥の購入方に苦心し旣に或國に多
量の彈藥買入れを托したりと云ふ
◎大將何人ぞ 東學黨は大將、左大將、右大將等
を置き軍隊を統理し居る由なるが其大將の何人な
るかは確知するを得ず鄭道令、徐薰角、崔大雄等な
りとの說もあれど未だ其信僞を知らす
◎韓民淸兵を懼る 此程淸兵が忠淸道の牙山に
上陸するや朝鮮人民の畏怖一方ならす今にも大戰
爭を惹起し鷄林八道は彼に蹂躪され國王殿下も淸
國に幽囚さるべしとの說を傳へ老幼婦女は旣に逃
支度を爲す者少なからず