10月28日
雜報
●サラミ(三)
天眼生
驕る平家の一門とも目ざされし閔族、改革の風に
吹飛ばされ、泳駿泳渙など云ふパリパリの權勢
家咸な家を遺て、出奔しけるが『大坂朝日の西村
讀賣の藤野』諸氏一計を案じて明巢を狙ひ、閽人
に賄ふに酒を以てし、南山下なる渙が別莊を俱樂
部とし、時節柄紅葉館よりも彌まさる如く珍重せ
しが、朝鮮一の奢り手が數寄を盡しし此家、若し
日本ならば、所得稅の最下額を納むる者さへ孰れ
も持ち居りなむ、此れでも首取らるゝからには、
ナント朝鮮の大臣には七生爲るまじきに非ずやと
の議には異口同音に一致せしとぞ、予又一時漢江
渡頭なる泳駿が別莊を借り、田舍步行きの憂を醫
せしが、見れば煉瓦疊みの御堂メキたる建物に欄
間の彫り物、床の絨緞、必定金は掛けつらむも、
其狹まさ低くさ、深川の岩崎の屋敷ならば、之れ
が百もはいるべしと思はれたり、以て朝鮮の現狀
の日本に比して萬事、此くの如き標準に在るを證
すべし
顧ふに名畵以て秋色の憐れを寫すとも、夕暮の鐘
の音を添えて凄涼の感を惹く能はず、巧文縱令ひ
異境の風を敍すとも、いかで目擊の感に半ばする
を得む、所謂穢なし、くさしと云ふ事、一口に言
へば只其れ迄なれば、日本の貧農にも彼樣な所は
あるべし抔思はれむが、中中左樣な譯にはあらず
朝鮮臭、朝鮮穢、一種特有の異臭、異穢、予は終
に讀者が想像力に托する而已、
人間としては零點
韓人生活の狀の卑穢陋劣に就ては尙數語を加へざ
る可からず、卽ち米を常食とすと云ひしは、頗
る負けてヤツタ話にして、三南地方は左程にあら
ねど、江原黃海平安の大部分は麥に小豆のたき合
せ、粟一色のボロボロ飯等を用ゐ、特に夏向は到
る處瓜畠の限りもなく、人民日に一回は大槪まく
わ瓜を飯に代へ、生硬未熟の分も厭ひなくムシヤ
ムシヤ啖ふ其樣凄まじき者なり、京畿は都あたり忠
淸は三南の一なれども、此瓜の崇拜最も甚し、扠
又住の點に就いて、如何にむさぐるし共兎に角家
を搆ふる事故、穴居遊牧の民とは同視す可からざ
れど、夏季に在りて邑又邑のサラミ共、大道又は
木の下に席又は藁を些許り敷き、其上に赤兒を抱
きたる儘安安と睡り夜露も夜風もサラサラ關心せ
ざる樣、イカにも人間としては零點の動物にして
若し獸とせば高等の生き物なり、且つ遊民宿無し
の夥しさは論外にて、彼等は或時は擔肩商とし
て行商の態を爲し、資竭くれば輒ち農家の手傳ひ
を爲して殘飯を請ひ、又は擔軍と爲りて荷物を運
搬し、東西に渡り步行きて其日を暮す也、
社會の無文
斯かる衣食住に安ずる韓人は、抑何を目的として
此世に生活し何を快樂として生涯を送る乎、疑も
無く他の人間一般と同じく、彼等も亦酒と女と博
奕の三ツを以て物質的快樂の三大目的と爲すと雖
とも、酒と云へば前に述る如く不都合なり、博奕と
云へば殆んと日日の本職同樣に行ひ、働く間より
も食ふ間よりもビン轉がしの時間が多き程なれど
畢竟ビタ錢三文五文のとりやり、看守の目を偸む
で飯の塊まり睹くる日本囚徒の方が結句灑落と見
る外なし、誠に曲のなき綾のなき社會ならずや、
而して女!此問題――古來幾多の智者學者才子英
雄を弄びたる末、世の開くれば開くる程文學者の
腦漿を傷め、小說家の肝汁を損ね、物質的開化者
流の目的物と爲りて、耶蘇敎民に之が裸體畵を美
の眞髓と崇められ、平和世界には婦女崇拜を先務
とすと公論さるゝ程の――此問題は韓人に依りて
如何に解釋されつゝ有る乎、あはれ無殘!朝鮮八
道に女無きなり、之無きに非ざる也、日本人抔の
普通理想に浮ぶ所の女てふ天成の美、肉塊の花無
きなり、尤朝鮮閥閱家の古鄕は重に平安道なるの
致す所歟、此道にはみやびたる風今に存じ、自然
美人の名産地として稱せられ、袁世凱左寶貴の腸
を斷たしめたる官妓の徒此邊より出でたれども、
▣は除外例なるのみならず、一種の盜賊なる役人
が慾情の具として發達するに過きざれば、女の爲
めに愛度事態には非ず、なべての韓女は男まさり
の勞働を爲し、やさしき姿迚は兎の毛ほども之無
きが常也、日本にては如何に寒村の鄙人迚女の兒
をば足らぬ中にも格別飾らすれど、韓人は四五才
の女兒をば裸のなりで馬糞を踏ましむるかと思へ
ば、男の子には却て赤更紗の子ン子コを着せ髮も
小奇麗に編みやる抔、丸で日本と反對なり、而し
て男子稍長ずれば必ず腰に一個の巾着を下げ、中
に鏡と櫛とを備へ、朝夕に鬢のあたりを取繕ふこと
をかしくも念入なる抔、萬事男女を取ちがへ居る
と覺ぼしく、男には隨分淸秀の顔を見る少からね
ど、女は渾べて荒神樣也、蓋し韓人は女房を財産
とす、彼等は實に內も外も女房に働かせて、己れ
坐食せむと云ふ目的を主眼として女房を擇ひ、形
姿の美醜を問ふの、性質の賢愚を尋ぬるのと云ふ
美術的精神的の問題には一步も進まざる也、一た
び韓村を過ぎる者は必ず韓女の勞働非常なるに喫
驚せむ、彼等は一家の食事家畜の飼秣、裁縫洗濯
を一手に引受け、其上田も畑も卒先して耕耘する
也、一家の生産を立つる動作の八九分は、全く彼
れの身に負擔さる也、而して其衣裳は男よりも汚
れ、其容貌坐作は無愛嬌の厲行也、世にも憐れな
るは韓女の境界ならずや、
韓女の室は一の神聖場として他人の出入を容るさ
ず、其牖を窺く者ありても、男女共に死を以て爭
ふべし、是れ一見、女を重ずるの習慣に似て而し
て非なり、實際は韓人が一方には女を目して善く
働く重寶の道具と爲し乍ら、一方には之を已が玩
弄物として祕藏の鍵を固める私念の熾なる結果な
り、其證據には韓女の病有るや、醫者の診斷を許
さず、如何なる激病にも暗投の藥餌を施すのみな
りとす、『然らば朝鮮に女醫者を持ち行かば儲か
るだらう』イカにも其奮發は外れぬ的なる可し、
シカシ、世の佳人才子よ、卿等若し朝鮮婦女の境
界を聞いて、先づ紅葉の小說にこぼす淚の餘滴な
りとも濺かずば、同じ人間としての冥利惡しかる
べきぞ、
顧ふに情誼、義理、化粧、美術、愛嬌は社會の品
位を形成する所以の要素にして人間の文は焉に存
す、人間にして此文無くんば、無味殺風景蠻野の
域に終らむのみ、而して人情の曲折、人爵の修飾
等凡そ人文を成し人品を補ふ所以の原動力主裁力
と爲る者は、多く男女間の愛、情誼、工夫より生
ぜざる莫し、去ればこそ昔者聖人も有夫婦、而後
有父子云云と宜ひけめ、今者西洋は夫婦を本位と
して社會を割出すの末、惡しき個人主義に陷り過
ぎたるは及はざるが如しの理にて物質的文明偏進
の弊をも享けつらむ、則ち酙酌折衷以て人道の本
經に乖かぬ樣爲さむは、固より東西文明融化の上
に一大新機軸を開くを要する次第なれども、然れ
ども朝鮮の如く女に天賦さるゝ美の原素を戕害し
て、更に之を發揮せしめす、優にやさしき人情の
春風以ておのづと人心を陽發せしめ、調和せしむ
る間に物質界の進步を誘啓す可き男女間の文を全
滅する社會に在りては、人間は食うて飮むて生殖
の務を遂けて、而して已むこと普通の動物と異なる
莫く、終に百年一樣卑猥陋劣の境界に沈澱澁塞す
るは免れざるの數なりとす、ナント濟度し難きは
朝鮮の家庭に非ずや、