11月1日
●サラミ(六)
天眼生
繼子根性
熟熟案ずるに韓民氣質の善處を擧ぐれば、亦稱す
べき所莫きに非ず、卽ち旅客の水を請ふ者あれば
必ず勞を吝まずして汲み與へ、店頭に憩ふあれば
供するに煙草の火を以てし、而して毫も報酬を望
むなく、偶之に五七文の謝禮を爲す共、「否、否、
莫關心焉」と言ひ固く辭す、又路を問へば親切に
三四町送り吳るゝもあり、其素直なる中中愛すべ
し、
韓人の氣質に就いては、尙近日紙上に揭ぐ可き
不得已錄中、山僧俠懷救志士。壯士機
智脫虎穴。おちか物語。韓僕忠助。等の諸話柄
を參考す可し、
此他彼等が本然の性を洞察すれば、矢張り人間普
通の心田無きにあらず、啓發、誘導、監督の方法如
何に依りては、彼を人間らしく開拓し了ること必ず
しも不可爲の業にあらざる也、但だ此本性の善處
は種種の事情に依りて殆んど其全部を鏽蝕され、
剩す所所謂一種のサラミ氣質あるのみなれば、我
當局者を始め心有る人人は此本然の性と現成の氣
質との差異を飽迄も精識し、由て以て之が御術を
案せざる可からざる也、
叉手も、地球上に他の國民と同じく人間として生
れたる韓人が何故獨り獸に近き狀態に陷り、人間
らしき精神知覺を沒了せし乎と云ふに、世の文明
史が證據立つる通り、外界の變化刺衝なき無味單
調の境界、習慣を固守し役人に卑屈する國風は彼
等の神經を鈍殺し、彼等の思想を凋死し、退步に
退步を加へて今日に至りしや論を須たず、由來習
慣に安じ秩序を重ずる保守的氣風は、社會の沈滯
澁塞を惹起すを以て良習慣好秩序其者を保守す
ると云ふソノ習慣崇拜すら進步開發の爲めに時時
矯正振策を要する者たるに、朝鮮は本源より惡し
き習慣を保守する國風を馴致し來れり、其れ曷ぞ
退步の極、蠻野に歸せざらむや、彼等は現國王の
始祖李某に征服されし當初より手酷く制壓され、
手も足も出ぬ程に束縛を受け、働けば働く程絞り
取られ、智慧あれば智慧あるほど禍害を速ぎ、權
利財産は言ふも愚か、生命の安全すら期し得ざる
より、恰も世の繼子が何の望を發することも得せず
只管打たれざらむを僥倖する如く、匹夫の分、位
尊きを望むナ、家富むを願ふナ、只衣食以て活き
居れば可なりと云ふ、消極的觀念に頭腦を支配さ
れ覺束なくも世を渡る末は、心も癖み氣も曲ねり
仁愛信義の春風に浴し、廉恥節操の秋露に潤ふの
因緣全く斷絶して、利に由りて義を曉るの機會す
ら失ひ恥も人情も無感覺の淵に漸し、孤弱孱孱、
疑懼百端、持つ物をば奪はれむを恐れて潛に藏匿
し、識る事をも人に憚りて覺えぬと云ふが如き、
虛僞を常事と做し反覆を常道と信する至醜至陋な
る現成の氣質とは成り了ぬ、斯かる氣質に依りて
迎へらるゝ我陸軍兵站部の苦心我當局諸士の焦慮
察するに餘り有る沙汰ならずや、
蛙面水〓〓現金主義
韓人に物を徵發するに當り、有るやと問うて、イ
ツソ(有り升)の答を得ること難し、大槪の場合に於
て彼等は必ず先づオブソ(無し)とキツパリ返答せ
ざる莫し、甚しきは己れが現在商ひ居る物貨を買
ふ人にすら、大聲にオブソ!を喰はせること有り、
是れ蓋し前項述る繼子根性より出る所にして、始
終役人又は力有る者に徵發され代價一文受取り得
ず、請求すればアベコべに笞撻を蒙る前例に懲果
て、見慣れぬ人間には何でも無し無しとさへ言ひ
置けば、奪はるる氣遣ひなしと憐れにも思ひ定む
る故なるべし、之に就て可笑敷事の多かりし中に
或時加川と呼ぶ町を過ぎし折の事なりき、予等三
騎にてト有る家の門前に憩ひ、水請はむと室內を
見るに、五六の韓人團欒し何やら井に盛りたる
を抱へ、舌皷打つゝサモ甘さうにヤリ居るにぞ、
意地ぎたなくも井の中をのぞけば、コハいかに中
には鯰の味噌汁ドロドロ也、米の飯さへ緣薄かり
し其頃、斯かる珍味に遇うてなどか溜まるべき、
忽ち一椀を命令するに、三四匕ばかりを與へぬ、
忙はしき咽喉をば何時の間に通りしや感ぜぬほど
なれど、甘きことは正に甘し、到底八道第一の
美味と思はれたれば、輒ち外なる一行を呼んで之
を告ぐるに、二士聲に應じて至る、一士は卽ち寬
厚の君子、口重げに鳥目數多取らするに因て、件
の汁を供せよと言ふ、韓人は一同呆然顔見合せ居
りしが、是に至りて便ち異口同音に無!無之!無
矣!を叫べり、他の一士は卽ち佛と爲り鬼と爲り
て愚なる朝鮮の官民を飜弄する狂言の絶妙なるよ
り平素吾黨の團十郞を以て稱さるゝ者たり、何ぞ
普通の筆法たるオブソの一語に引ケを取らむや、
渠はヅカヅカ竈の邊に赴きアワヤ釜の蓋を取らむ
とする此途端、發見されては一大事とや思ひけむ
此家の女房は倉皇走り寄りて蓋を抑へ日本貴人!
無!よ、々々と言ひ爭ふ、團十郞は忽ち詐欺的鄙
人!捕拿矣(噓をつく太い奴フンじばるぞ)と大喝
一聲して眼光爛爛、劈頭他の荒膽を挫ぎて、叉手
溫顔平調、吾吾日本人は朝鮮國の倒懸を拯はむが
爲めに、酷暑を冒し、饑渴に困み、見らるゝ通り
肉落ち骨出でゝ、斯く奔走するに、汝等有る物を
無しと詐りて、吾等に供せぬは、何たる不人情ぞ
鷄にさへ餌をやるではないかト嚙み碎いて言ひ聞
かせる、流石の韓人も之には恐縮して演舌の未だ
畢らぬ內に、早目指す美汁の蒸氣立つをば前に捧
げたり、團十郞は莞爾と打笑み『ト言はナーキヤ
其日か送られーヌ』鼻謠に滿足を籠めつゝ、三人
齊しく箸を把り、山谷あたりの鼈煮、此半分も甘
まからずと稱へ、一人前五六合宛も盛りたるをば
見事にやり附け、終に主人に與ふるに半圓銀貨を
以てするに、今度は一坐二度ビツクリ、斯かる大
金はサテ置き、十文の代價も貰ひ得まじと覺悟せ
るに、是れは不思議と言はぬ許りの容貌して、ソ
レから例の辭退が始まる、丸で先刻とは打て變つ
て、チヤホヤ言ひ乍らも、痛み入て金を受取るの
勇氣なければ、此方は銀貨をばお神さんの指輪に
せよと講釋の末、辛うじて手に取らせ、後姿を拜
まれ乍ら悠悠として立去れり、前後の相違斯くの
如く甚しきも、韓人は徹頭徹尾蛙面水に搆へ、噓
を發見されても恥かしき顔もせず、タツタ今無し
と言ひし物を平氣で出しくる其有樣、よろづ右の
通りにて吾等只あきれる外なし、尤コノ所、韓人
情僞の由て動く所を明にし團十郞風の驅引呼吸、
對韓方針の根本なるべし、
去れば韓人には、此人は利益を與ふるの人也と云
ふ信仰を起させさへすれば、如何樣にも我用を爲
すべしと雖とも、此信仰此安心は、所謂孤弱孱孱
疑懼百端なる繼子根性の彼等に向ひ、容易に收め
得べきにあらず、之之の用を務めなば云云の報酬
せむと言ふた許りでは、彼等毫も取合はず、首肯
くは只現金を見た上に限る也、ソレも前錢遣れば
中途で逃け去るべく、金銀の類ありとも例の韓錢
(一文錢)の嵩を見せねば尊敬せず、韓商と取引せ
むには、店頭に一文錢山の如く積み置けば富有家
として信用さる、是れ祕傳なり、
豈啻に商賣上に現金主義を見るのみならむや、刑
罰も之に由て免るを得べく、人の命も之に由りて
買ふを得べし、憐れなるサラミの官に捕へらるゝ
や、無理難題の拷問に息もたえだえと爲り、已む
を得ず、後に廻はされたる手の指を折りて苛責の
鬼に觀めす、一本折れば一貫文、五本折れば五貫
文、折る數の殖ゆるに從ひ、笞のあて方漸く輕く
トヾ一家の財産を擧げて一命を貰ひ受ける、背後
の方には泣き寄りの親類、工面十面して現金を持
參し居る、其金の才覺附かぬ者は無論土牢の中に
其儘往生する外なき定めなり、