11月2日
●サラミ(七)
天眼生
お世辭上手〓〓探偵氣質
朝鮮人は或意味に於て會話的國民なり、就中役所
の才子又は都人のお世辭上手お饒舌上手には吾等
每度驚歎せり、其談話の酣なるに及んでや眉を
搖かし手を舞はし、ペラペラサラザラ、立て板に
水を流す辯中、意に深淺あり情に曲折あり、よき
程に應答すれば二十四時間幕無しにも演じ去るべ
し、而して其態度辯口は以て米佛の貴婦人にも讓
らざるべく、愛想を善くして煙草を附け吳るゝこと
老娼妓の如く、機嫌を取つて酒を勸むること、港の
藝者も及はず、而して表裏反覆の著るしきも亦妓
流に異なる莫し、彼れ朝には李家に親むで金家を
譏り、夕には金家に近いて李家を毁る、凡そ韓人
の相伴ひて一客を訪ふや語言相和し、眉目相援ひ
寔に莫逆啻ならざるの觀有り、而して一人先づ室
を去るや、二人方に去りし者を誹謗し、主人公を
警むるに渠は侫人也信ずる莫れの語を以てし、少
頃にして一人復た辭して去るや留まる者更に前二
人を竝せて誹謗し、以て怪しとせず、其擠陷、請
托、離間、中傷等媢嫉猜忌より出る有らゆる惡德
を具ふること恰も繼子根性に妬婦佞宦の邪質を加ふ
るが如く、人をして茫然正邪の甄別に苦ましむる
者有り、
加之彼等の終始キヨトキヨトとして瞻、コソコソ
として行くの習慣は其探偵的眼光を長ぜしむるに
や、何喰はぬ顔して人の隱祕を探り、何の氣振も
見せずして人の情僞を偵ひ、サモ親切らしく交際
する間に、疾くに敵の間諜たる役目を務むること素
晴しき長所也、外相の無感覺に因りて韓人を藐視
する日本人は忽ち此毒質に罹りて恨悔すべし、牙
山平壤の二役共に韓人の此間諜的特質に誤られ、
我兵が危くも一部の失敗を釀したる事跡往往見る
可し、(此邊の消息請ふ更に近日揭く可き「戰陣雜
話」中別に傳ふるを待て)さりとは油斷のならぬ
愚人種ならずや、
妬婦俱樂部
究め去り究め來れば、愈愈出でて愈愈異妙怪醜を
覺え、臆病と見れば時に橫着なり、野蠻と見れば
時に猿智慧銳く、無神經と見れば時に探偵眼有り
無文無智と見れば時に機巧奸曲なるの處、殆んど
言語道斷、只纔かに形容し說明し得ざる趣を告
げて已むの外なき此サラミ氣質は、實に廣く一般
に亘り上下に通し過去現在を綜合したる社會的觀
察が予輩に證明垂示する所にして、所謂『朝鮮改
革の事』『韓廷中外の情』等亦一に此くの如き氣質
に點染され 此くの如き面目精神を代表するに非
ざる莫し、何となれば政府及ひ官吏の如きは固よ
り社會の一部分に過ぎず、到底時勢人情の範圍を
脫せざる者なれば也、
然らば則ち怪む莫れ韓廷改革のいかに異妙怪醜な
るかを、怪む莫れ韓廷に對する我の好意は如何に
無感覺を以て受けらるゝ乎を、韓廷の大臣が如何
に相互陷擠を事とし私地私名に惑溺し、廟堂の上
宛然妬婦の俱樂部を現出せし乎を怪む莫れ、其今
日有るは大院君入城の前より、日淸交涉の初より
夙に先天的約束を享け居りし也、
是故に上來詳說せるサラミ氣質の眞面目を玩味せ
ば何人も據りて以て韓廷の現狀を推知するに難か
らざる可しと雖ども、予は特に韓廷の三絶を寫し
て之を形容し盡さむとす、三絶とは、一に曰く「○
妃の舌、二に曰く、大院君の耳、三に曰く、安駉壽の
手、是れなり、