11月8日
東學黨の眞相 (一)
天眼生
純雜二種
濟韓方策の講究上先づ觸着する疑問は東學黨とは
如何なる者ぞと云ふ點に在り、特に今春古阜の知
縣を誅戮し全州府城を乘取り、內政更革を强制的
に催促せる全明叔一派の東學黨と、現今斥日の旗
を慶尙忠淸の諸道に飜へし屢、我兵站部を襲擊す
る自稱東學黨とは、同一のもの歟將た別種の者歟
若し異種各別の者ならば、何故に均しく東學黨の
名を冒す耶、夫れ或は二者の間相關係する所なき
乎、若し同一の者ならば、何故に曩には外人排斥
を口にぜす單に內政改革を主張し乍ら、今は則ち
爾く日本敵對を專務とするや、是等は孰れも世人
が疑惑の眼目なる可し、予請ふ聊か識る所を述べ
て以て之が解釋の一助と爲さむ、
愚見に依れば東學黨に純雜二種有り、一は仁義の
二字を信奉し下民の疾苦を拯ふに急なる全明叔一
派、卽ち純粹東學黨と稱すべき者、一は頑固にし
て稍抵抗力有り、時に彌次馬主義に驅らるゝ、雜駁
烏合の東學徒黨是れ也 而して其始祖崔先生の遺
訓を服膺すと稱する事、及び祖國支那を崇奉する
點は二者共に其趣を同うすと雖も、前者は則ち
純ら地方制度の改革に熱中し後者は則ち只管鎖國
の舊習を株守して、譯なしに强がり、其急とする
所相異なれば、日本排斥の感情の如きも亦冷熱の
差無き能はず、從て一方には貪官汚吏掃蕩の目的
未だ達せざる途上、橫合より日淸兩國の出兵に遇
ひ、案外の事迚進退に當惑し、一先づ退陣して樣
子を窺ふ間に、一方には頑强連中無分別にも日
本人に喰つて掛り、眼前內國の敵を控へ乍ら又好
むで外國に仇を結ぶ樣なる亂調子にも立ち至る次
第にて、同じ東學黨乍ら本來肩の入れ所が彼此相
隔たるより、終に一體兩面怪しかる工合とは爲る
なり、
去れど世界の大勢に通せず國際の狀態に暗く、頑
陋依然其所謂中國を崇拜し、古聖の遺法を繰り返
へすの外餘策なき點に至ては二者太だ相徑庭する
所莫ければ、折角の純粹分子も時の調子にて狂ひ
出し、可憐なる佐倉宗吾流の行迹變じて津田三藏
然たる無鐵砲沙汰に歸せざるを保せず、況して彼
等が尊信する○○君の煽動あるに於ては、純雜玆
に混合し去り擧つて向不見極まる斥日運動に狂奔
し、果ては殊勝にも民を塗炭に拯はむと欲する純
粹東學人全明叔等も我日本の逆鱗に觸れ、玉石共
に燒かるゝの末路を見ずと謂ひ難し、斯く爲るも
爲らぬも韓廷の有力者が手加減と我外交家がヤリ
鹽梅一ツに在り、あはれ日本の君子、能く其濟韓
の大義を貫かんと欲せば、盍ぞ此邊の驅引に心を
盡し我に心服する倔强の味方をは朝鮮內地に作ら
ざる、
東徒の妄信及び其組織
東徒の起原ザツト申さば今を距ること三十年前、慶
尙道尙州に崔先生なる人有り、仙儒佛の三道を究
めて其祕蘊を闡き、仁義を誨へ道術を布き遠近の
尊信する所と爲り、從遊する者群を成せしが、終
に官人に忌まれ謀叛の冤罪に依て斬に處せられた
り、或は云ふ當時獄吏中崔先生を信仰する者あり
夜竊かに之が縛を解き勸めて遁れしめたれば、崔
は山中に終りしと、孰れが實なるや知らざれ共、
當時の人民は一般に崔に神通力有り呪文を斫て風
雲を喚び、磔刑の際天に昇りしものと言傳へり、
此妄信は今日に至る迄已まず、乃ち此怪しの先生
が道術經學を竝せて東學とは稱しつ、彼れの學徒
とは謂はむよりは寧ろ宗徒と云ふ可き一團の妄信
家こそ東學黨の要素とは爲りけれ、
去れば東徒は最初より暴擧を職とする祕密團體と
云ふ譯にあらず、從來彼等は隨分公然と其道を唱
へ、今に自ら東學人と名告居る程にて、場所に依
りては官吏を憚りもし、又同志の姓名などは祕し
もすれ、昔の謀叛人が血判して神に誓ふ程の六か
しき組織にあらず、一邑に必ず接長と稱する取締
一人乃至數人を置き、接長の上に道師有り、現時
は尙州の崔時亨古阜の全明叔其外數名道師として
各方面の首領と爲り居れり、其日課とする所ろ呪
文有り、長き者短き者唱誦適意とす、彼等の中に
は念珠を携ふる者も少からず、是れ佛家の說を加
味する故と見ゆ、其信ずる所一に聖人仁義の敎、
二に神變詭怪の道術にして、仁義に凝る爲めに、
暴君汚吏を掃蕩して生民倒懸の苦を解くと云ふの
意氣を生じ、道術に凝る爲めに祖師の遺戒を崇奉
し、祖師の高弟たる現在の頭領等を神視す、全羅
忠淸二道の人民は言へり、東學黨に八人の大將あ
り、神通自在にして變幻百出、鐵砲の彈丸も中
らず、矢の根も身に透ほらず、官兵如何に攻むる
も殺獲すること能はずと、蓋し東徒自身も斯くと信
ずるならむ、妄信は啻に此に止らず、崔夫子臨終
の豫言に甲午の歲七月朔、吾は再び此世に還へり
雲峯の山中より現はれ出づ可し、甲午の歲には必
ず大亂有り我道の伸ぶ可きは正に此歲也との語有
りし由にて、皆皆深くも之を信仰し、全州に敗ら
れたる後に迨びても尙、七月一日には祖師必ず現
化し給うて余等を助けらるべし迚期待せし樣子な
りしが、其の後果して手品の換え玉なり何なり出
でたるや否やは知らず、尤無感覺此上なき韓人な
れば頭領共の言葉一ツにて何とでも言ひ黑め得べ
きを以てワザワザ手品を使ふ程の手數も要せざる
可きか、兎に角東徒の要素と爲る數百人の者は、
這般の妄信あればこそ普通の韓人に比して勇氣も
有りハマリも强く、大將の采配一ツにて時に矢玉