12月6日
●東洋問題に
干涉する勿れ
歐洲の列國、古來割據對峙龍驤虎視、苟も釁の
乘すべきあれば輒ち其機を失はず、國力平衡を
名として濫りに他國の戰爭に干涉し、甚しきに
至りては强國合同して無名の師を興こし以て弱
邦の地を分割し恬として憚る所を知らず哀哉、
獨り北米合衆國は悠然として天の一方に高步特
行し、曾て同人種の醜行を學ぶを屑とせざるな
り、啻に之を學ぶを屑とせざるのみならず大義
の在る所は毅然斷行、復た全歐の恫喝を恐れざ
るなり、往年歐洲列國が南米の政變に干涉せん
とせしとき、モンローの宣言一たび出でゝ豺狼
の肝膽をして爲めに寒からしめたる如きは實に
史上の美談たり、今回我東洋問題に關してニユ
ーヨークワールド新聞の論旨亦た見るに足るべ
きものあり、因て之を譯出して讀者諸君の左右
に呈す、諸君之を先日來の紙上に揭載したる『支
那の將來』及び『東亞戰亂の危機』等と對照せら
れなば必ずや思ひ半ばに過る者あらんとす。
華盛頓府よりの通信に曰く、我米國政府▣歐洲諸
强よりして日淸戰爭に干涉すべきの勸誘を受けた
るも斷然之を拒絶したりと、是れ必ずや大統領ク
リーヴランド氏及び外務卿グレスハム氏の所爲た
らずんばあらさるなり、蓋し氏等は其先輩の有名
なる先例(モンローの宣言を指す)を蹈襲したる者
ならむ、此先例に反するの行爲の屢屢困難に陷る
ことは經驗の敎ゆる所なり。
然りと雖日淸戰爭に干涉するを避くべきは啻に米
國に於て然るのみならず、歐洲諸國の義務として
も亦然らざる可からず、夫れ日淸戰爭に干涉する
ことを勸誘する者の英たり佛たり將た露たり獨た
るを問はず、盡く之を擯斥したるグレスハム氏の
處置旣に其當を得たりとせば、一步を進めて歐洲
人の東亞戰亂に容喙するを杜絶するを以て我政府
の任務となすも豈不可なるの理あらむや。
夫れ兩國兵を搆ふるに當りて、其關係以外の諸國
より威力を以て之を止めしめんとするは、交戰國
の利にあらず、又宇內の爲めに平和を希望する所
以の道にあらざるなり、戰爭は須らく其自然の趨
勢に一任し交戰國をして自由に其雌雄を決せしめ
戰勝者をして正當の結果を獲せしむべきなり、之
に反して交戰國を外部より威嚇して壓制的に一時
の平和を彌縫するも到底持久の望あらざるなり、
何となれば戰爭の原因は依然として消滅せざれば
なり、故に其戰勝の利を掣肘せられたるの國は常
に以て遺憾となし、其希望を達せんとするの念、
鬱勃として禁ずる能はず、乘すべきの機を待つこ
と躍如たるべきなり。
歐洲諸國の東洋問題に干涉するは單に彼等の利己
主義に出でたるに外ならざることは明明白白復た
掩ふ可からざるの事實となれり、彼等は實に進步
的の日本を抑壓して野蠻的の支那を捍護し、以て
東洋に於る彼等の商業上の利益を保護せんと勉む
る者なり。
我米國の利害とする所は歐洲列國と大に其趣を異
にする者あり、我米國の急とする所は夫の國力平
衡の維持にあらずして、人文の發達を促し社會の
開化を謀るに在り、故に外務卿グレスハム氏にし
て能く此旨を體し、竟に歐洲列國をして東洋問題
に干涉するの念を絶つに至らしめなば、長足の進
步をなせる日本國を以て我亞米利加合衆國の一大
友邦となすを得べきなり。