●朝鮮改革談
▣の朝鮮公使大鳥君は一昨日客に向て左の如く朝
鮮改革に就て談ぜられたり
朝鮮の改革は實に難事中の至難事なるべし余は今
同國改革の政策に關する意見を開陳することを止め
同國の▣▣▣之を改革するの困難なる事情に就き
一二言ふ▣ある可し
地方官の私權私利を逞ふすること
朝鮮各道の監司なる者は一人にして行政司法、立 韓民の全く無學不文なること
凡そ其國民の文野如何を卜するには其國都市に在 迷信妄想の甚た强きこと
前項の如く其人民の無學不文なると其頑愚なる性 早婚によりて氣力を失ふこと
野蠻人民の弊習として朝鮮人も亦早婚を怪しまず 高尙なる思想皆無のこと
以上の無學、迷妄、怠惰等の▣習慣あると同時に
法、警察及ひ兵馬の事項迄も掌ることなるが其下民
に對するの權力非常に强大なるものにして其收得
する所の利益も亦甚た少からず又各道の監司は何
れも中央政府に若干の金を納めて其官職を買ひ二
ケ年を以て交替するの定則なるか平安道の監司の
如きは五萬圓位の相場にして而も二ケ年間其職に
在る時は其孫の代迄も安樂に衣食するの基を收得
すと云ふ程なり而して其俸給と云へば全く無給料
のことなるに斯くも僅に二ケ年にて子孫永久の基を
立て得へ
自家の腹中を肥やすに是れ由らすんは非す此弊を
矯正すること最も緊要にして而も甚た容易ならざる
ことなる可し
る書肆の有樣如何を點檢するに若くはなし京城の
如き廣大なる首府にして其書肆僅に二軒に過きす
其竝列しある書籍如何を觀察せは皆何れも百余年
前の古書陳典ならさるはなし且や同地に於ける新
聞紙の如き幾回か我國有志者の企圖を經しも同國
人は之を無代價にて與ふれば直に貰ふへきも兎て
も自ら金を出して購讀する者は一人もなき有樣に
て文學學術の思想とては全く胸中に在らざるなり
之を我が維新以前の人民に較するも尙ほ確かに千
年位も遲れ居るなり同國改革の困難なる知る可き
のみ
質とにより養ひ成されたる種種の迷信妄想は決し
て一朝夕に打ら破ること難く其文明輸入に就ては
確に大困難の要素たる可し迷信妄想は一一列擧す
へからされとも日の吉凶、方の善惡、動物の鳴聲
▣とを信じて實に他愛なきなり
富裕にして生活の憂なき者は槪ね十二三才にて結
婚するなり爲に二十六七迄は氣力未だ衰へざるも
早や三十四五才に及へば漸く衰弱し且つ放逸惰弱
となり寢ても起ても烟草のみを是れ友とし隣家に
火事ある際にても尙ほ二三尺の長烟管を口に噉へ
て消防し且つ其荷物を運ぶ有樣の惰弱なる驚く可
き程なり
名譽、德義、廉恥、勤勉、忍耐、貯蓄、公共、愛
國の心などは殆ど皆無なり其扶掖▣▣の至▣なる
こと多言を須ゐずして明かなり