●井上公使の建策(承前)
(十一)警察權をして一途に出しめざるべからず
抑も警察は行政上竝に司法上必要のものにて國家
の行政機關に欠くべからざるものなり就中其要務
は人民の生命財産を保護し且つ犯罪を搜査するに
あるを以て適當なる職權あるものゝ外に陰に陽に
之を使用し又は其命令を受けしむべからず現制の
如く警務廳の外に巡捕と稱する特別のものを設く
る如きは最も不可なり故に一日も早く此等の弊害
を除かざるべからず且つ職務權限及警察官登用に
關する規則は別に制定せざるべからず
(十二)官吏の服務規律を立て之を嚴行せざるべ
からず
凡そ一國の官吏たるものは淸廉其職務に鞅掌せざ
るべからず賄賂苞苴は實に政事紊亂の基なり官吏
をして淸廉ならしめんには各相當の俸給を與へ位
地に相當なる衣食住を爲さしむべし現今の如く官
職を賣り若くは請負的の者となす如きは急速に改
正せざるべからず又地方官衙組織の改正は租稅賦
課法の改正と共に必要なる急務なり
(十三)地方官の權力を制限して之を中央政府に
收攬せざるべからず
從來の慣例として地方官は其管轄區域內に裁判權
及兵權を有し且つ中央政府に納むる定稅の外更に
苛稅を徵收せり是れ皆賣官より來たる弊にして地
方官が其官職に就任するに付き巨額の金員を納む
る埋合として人民より收斂するなり是等は頗る過
當の權力にして人民の疾苦を感ずるも皆之に因す
左れば今後に於ては宜しく適當の度迄之を中央政
府に收攬し內務衙門及ひ度支衙門等にて監督する
の法を設くべし尤も賣官の弊は此程改革の時之を
嚴禁したるも尙ほ今後に生ぜしめざる樣嚴重なる
制を設けざるべからず
(十四)官吏登用竝免黜の規則を設け私意を以て
之を進退すべからず
大君主が大臣を進退するにも大臣が所屬官吏を黜
陟するにも一點の私怨又は私見を挾まず只其職務
の適否如何を鑑み規則に照し公平を專一とせざる
べからず故に賄賂苞苴を嚴禁すると同時に官吏登
用法及免黜規則を設くべし
(十五)勢權の爭奪又は猜疑離間の惡弊は斷じて
之を止め政治上に復讎的觀念を抱かしむべか
らず
勢權の爭奪及政治上の復讎は皆私欲私怨より生ず
而して國政の紊亂は實に是に基因す國政は宜しく
公明に之を處斷し一點の私心を挾むべからず故に
今日より此等の惡弊を苅除するの法を講ずべし
(十六)工務衙門は未だ必要を認めす
目今の情勢工務衙門を特置する程の必要なし故に
農商衙門若しくは他の衙門に合倂し時機の到るを
待つて更に之を設置すべし
(十七)軍國機務所の組織權限を改めざるべから
ず
軍國機務所の權限稍稍大に失するやの傾きあり依
て之れが組織を改定し法令を立案するの權力を删
減すべし
(十八)熟練ある顧問官を各衙門に聘用すべし
百事を改革し法規を制定せんには其道に熟練なる
顧問官を聘用するにあらざれば到底其效を擧げ難
し
(十九)留學生を日本に派遣すべし
人材を養成し且つ各科目を硏究せしむる爲め日本
に留學生を派遣すべし
(二十)國是一定の必要
獨立の基礎を鞏固にし內政を改革せんには國是を
一定し宜しく宗廟に誓ひ之を臣民に宣布するを要
す