1月23日
●朝鮮瞥見談

是れ星亨氏が其の朝鮮旅行の歸途廣島に立寄り
て談じたるものなりとて同地より傳へ來れるも
のなり

△朝鮮大君主陛下の寬容 人は朝鮮國
王を指して暗庸の主と爲す、然り、固より非凡の
英主にはあらざるべし然れども其の能く人言を容
るゝの大德より見る時は寧ろ寬仁の主と云ふ可し
國王の常に蹉跌を招ぐは輒く事を信ぜらるゝに在
り而して在來の朝鮮は言語壅塞の深霧に鎖されつ ゝありしを以て國王は殊更に五里霧中に在るの思
ひを爲し左顧右盻處斷に苦むものゝ如くにてあり
き井上公使銳意一番荊棘を披き深霧を拂ふ國王賴
りて以て重しと爲し一に公使の意を承けて事を行
ふに至れり之れを以て見る時は今の朝鮮英主を要
するは勿論なれども若し止むなくむば寬裕の大德
を備ふる當代の國王陛下は寧ろ適當の人物ならむ

△王妃殿下の慙悔 牝鷄晨を告げて一家
傾く況んや堂堂たる一王國に於てをや王妃殿下は
閔氏の家に出で常に己の地位を保たむために國父
たる大院君を疎むじ外戚の援を取りて重しとなせ
り王妃殿下の千▣百計は只己の地位を保ち倂せて
世子宮をして鞏固なる地盤に立たしめむとするの
私情に出づ若し夫れ王妃をして儼然たる國母たら
しめむと欲せば先づ其心を安ずるの策を講ぜさる
可からず井上公使は王妃に對して勉めて最好の手
段を取れり故に王妃は自ら慙悔して後來を愼むべ
しと云へり

△大院君の退隱 大院君の退隱は朝鮮國或
る一部分の腦漿には非常の不良感情を與へたるに
相違なきも同國大改革の途上一大障礙を取り除き
たるに均し大君が每に賴らむとしたる大淸は今や
連敗の局に在りて東徒も亦氣息無からむとす大君
固より不明の人にあらず旣に勢の抗すべからざる
を知りて退く彼も亦進退を知るものと謂ふ可し

△井上公使の伎倆 盤根錯節を處斷する
は井上伯の長所なりと雖も乳臭兒に均しき朝鮮國
に對しては伯も亦其銳を施すに苦むべしとは世人
の凝視する所なりしが伯の敏腕は思ひの外其功を
奏したり伯は第一着手として朝鮮疲勞病の大根抵
たる內官容喙の弊を除き奮勵幾振咽を扼して背を
拊つ其の有終の功を奏するは期して待つに足らむ
か唯惜むらくは圓轉滑脫の間やゝ風厲霜烈の威を
缺くに在り伯たる者豈反省せずして可ならむや

△日本公使館は宛然內閣の如し 井上
公使奮て朝鮮を督勵す萬般の施設其料理の獻立に
至りては皆井上公使の手を煩はさゞるものなし材
料の撰定、建築の計畫、布置、裝飾、一に皆日本公使
の籌策に成り韓廷は唯手を拱して成を仰ぐ井上公
使夙に起き冷水を浴し多くの部下を督して措計到 らざるなく三更迄椅子を離れざること稀ならずと公
使星氏に向て曰く余は十年若かくなりましたと以
て其意氣を想望するに足るべし

△朴泳孝氏泣て恩を謝す 星氏の一行
朴氏を訪ひ其宿志を達するの近きにあらむことを
祝す氏慇懃恩を謝して曰く生の今日ある實に貴國
の賜にして朝鮮の今日ある亦貴國の賜なり唯鞠躬
身を殺して以て負荷の大恩に報ゆるあらむのみと
流涕闊袖を濕せり昨は落魄の一寒生今は一國の大
臣と爲る轉た今昔の感に堪へざるものあらむ

△日本商人の大覺悟 驕兵は敗る豈唯兵
のみならむや今や仁川京城間一の支那商なきを以
て日本商人は高踏闊步得意に其手腕を弄しつゝあ
りと雖も平和の克復は何れの日にが來らざるべか
らず而して平和克復の日は商戰を布告せらるゝの
秋なり支那人兵に弱なりと雖も商に將たるの略に
富む日本商人たるもの之れと戰ひ連勝を奏するの
策を講ずるの急なるを說くものは寂寞として聞ゆ
るなし日本商人の大覺悟は此時を棄てゝ將た何れ
の日をか期せむや

△日韓新聞紙京城に生れむ 京城の有
志者は日韓兩字新聞紙を起し以て彼我の智識を交
換せしめむと奔走中なり好擧なりと云ふ可し