6月5日
政府軍が全州で大敗、死者二百余人

東學黨ますます猖獗 東學黨の勢いますま
す熾んにして、官兵しきりに破れ、今やまさ
に京城に迫らんとす。一昨三日京城發にて、
東京の或る方に達したる電報は、左のごとし。

官軍また全州砥山に大敗し、副將以下死す
る者二百余人あり。かつ東學黨は旣に忠淸
道洪州の石城(京城を距る陸路二十六里)
を占據し、まさに京城に進まんとするの勢
いあるにより、韓廷は更に五百余の兵を發
して、泰安(京城を距る陸路十四里二十四
丁ばかり)の衝路を扼したり。

日本は速やかに出兵を、と

速やかに出兵すべし 近報によれば、朝鮮
東學黨の騷動はいよいよはなはだしく、次第
に京城に近寄るの勢いにして、かの政府の狼
狽一方ならざるよし。右に就いては、目下歸
朝中の大鳥公使も至急かの地に赴くべしと云
う。その騷動は單に朝鮮の內亂として認むべ
からず、事の次第によりては、日淸兩國間の
關係ともなりて、東洋問題を惹き起すに至る
の結果も圖るべからず。この際公使の歸任は
もとより必要なれども、これは外交政略上の
事にして、人民の敢えて喙を容るるべき限り
にあらず。我輩は日淸の關係に關せず、東洋
の問題を問わず、ただ目下の急として、かの
國に在る我が居留人民の生命、財産を保護せ
んことを願うのみ。かの亂民の亂暴なる、日 本人に對していかなる危害を加うるやも知る
べからざるは申すまでもなく、かの政府の官
兵とても等しく亂暴の徒にして、官民ともに
兵と云えば兵なれども、その實は無賴漢に兇
器を授けたるものなり。賊勢の猖獗、官兵の
跋扈はなはだ危險の至りにして、その中に生
命、財産を托する我が居留人民の不安心この
上もなき次第なれば、何はともあれ速やかに
相當の實力を用意して、保護の手段を取らざ
るべからず。或いは兵隊を發するには、天津
條約の談もあるべきなれども、我輩の今日に
急なるはただ人民保護のためのみにして、他
に挾む所のものあるにあらず。たとえ兵を送
ればとて、眞實の保護に必要なる數を限るこ
となれば、支那政府に於いても一應の通知を
得たる上は、必ず嫌忌の念もなかるべしと信
ずるものなり。