6月24日
淸國の大軍出發、危機切迫
朝鮮の山河は近來戰雲慘澹として、その內
情に精通するものは、旣に大勢の赴く所を極
めて、ただ報道の到るを待つのみなりしが、
頃日續續來着する電報によれば、朝鮮の危機
ようやく切迫して、東洋の天地まさに多事な
らんとするの景勢あり。當初日本出兵の通知
に接したる李鴻章は、にわかに十六艘の戰艦
に出發の命を下したりと云い、また大いに陸
兵を送るの準備に着手したりと云い、その後
招商局の汽船を擧げて船籍を獨逸に移し、外
國國旗の下に保護を托して、ひたすら開戰の
準備に汲汲たりとの報道あり。李鴻章の朝鮮
に對する用意ようやく急激なると同時に、他
の一方には、
日本に向かって軍隊の撤去を請うて止まず。
袁世凱は初め朝鮮政府をして、日本に兵士
の撤去を請わしめたるも、同政府の所爲のみ
にては手緩しとや思いけん、自身も進んで大
鳥公使に請求する所あり、自國の兵を出だす
や、世間に國なきがごとき擧動をなしながら、
一朝他國の出兵を見れば、急遽狼狽不當の言
を以って他の退去を促す、その請求の容れら
れざるはもとよりその所なるべし。ここに於
いてか李鴻章は、大軍を以って恐嚇するの慣
手段に出で、一昨昨日、淸國芝罘より飛來せ
る電報は、李鴻章が五千人の大軍を派出する
の準備に着手したることを傳え、一昨二十二
日夜同處發の再度の飛電は、
淸兵六千、旣に朝鮮に向け出發したり。
と報ぜり。今度派遣の大軍は、いずれの地に
上陸すべきか、仁川なるか牙山なるか、詳か
にすることあたわずといえども、兎に角、そ
の向かう所は確かに京城なりと云う。前▣▣
して朝鮮に在る淸軍は、旣に一萬に垂んとす。
かかる大軍を京城に派遣したる淸國は、今後
いかなる擧動に出ずべきか。淸軍京城に入る
の日、袁世凱の口より逬出する所は必ず、日
本兵撤去の無法なる請求なるべし。日本は必
要と道理によりて出兵したるものなり、故に
軍隊を後楯としたる不當の要求、もとより容
るべくもあらず、淸國の擧動宜しきを得たる
ものと云うべからず。右のごとく李鴻章は、
今度更に兵士六千を派遣したりと云い、韓廷
及び袁世凱は、相變わらず日本兵の撤去を請
求して止まずと云い、淸韓兩國より齎し來た
る通報は、皆事態切迫の報ならざるなし。昨
日京城發にて東京の或る方へ達したる電報に
よれば、事態ますます切迫、旦暮を測るべか
らざるがごとし、曰く。
危機切迫、帝國の國威を保維せんがために
は、到底無事に濟むことあたわず、早晩斷
然たる處置に出ずるなるべし。
牙山上陸の淸軍は三千人
牙山に上陸したる支那兵の數に就いては、
區區の說あれども、今その實際の兵員を聞く
に、天津より三營、旅順口より三營を、韓曆
五月六日着韓の予定にて、招商局汽船海晏、
圖南等にて出發せしめたりと。しこうして一
營は五百人を以って組織したるものなれば、
過日牙山に着したる支那兵は、総計三千人な
りと云う。