6月26日
彼れ果して何を爲さ
んとするか
支那政府は東學黨鎮壓の爲めと稱して自から兵を朝鮮
に出しながら日本の出兵を聞て遽に狼狽し他に向て兵
を撤去す可しなど我儘勝手の要求を試みて意の如くな
らざるより何か竊に決する所あるものゝ如く頻りに非
常の用意を爲し更に水陸の兵員を增發して朝鮮に向は
しめたりと云ふ其目的は何れに在るや知る可らずと雖
も或は其兵力を後楯と爲し大に聲威を張りて更に要求
する所あるが爲めにてもあらんか支那人固有の手段と
は云ひながら我輩は其擧動の淺墓なるに▣かざるを得
ず抑も我國の出兵は朝鮮の內亂に付き人民保護の爲め
に外ならずして▣、平げば直に引揚ぐること勿論なれ
ども彼國の有樣を見るに殆んど無政府同樣の次第にし
て內政の不行屆なるは申す迄もなく之が爲めに我日本
人民の損害を蒙りたること幾許なるや知る可らず卽ち
彼の明治十五年の變亂と云ひ十七年の事件と云ひ何れ
も彼國の內亂に外ならざれども其餘波を我人民に及ぼ
して財産生命さへも失ひたるもの少なからず今回の內
亂とても若しも他國の出兵なかりせば如何なる危險も
計る可らざる次第にして彼の政府の有樣にして永く今
日の如くなるに於ては不安心この上もある可らず斯く
ては我居留人民の財産生命の不安全は勿論、日本國の
利害より見るも決して等閑に付するを得ず卽ち彼をし
て自から其內政を始末し苟めにも他國人に危險の虞な
きを保證せしむること是非とも必要の處置なれども朝
鮮政府の無力なる自力を以て其始末を爲すは到底覺束
なき所なれば東洋の先進にして且つ隣國の友誼ある我
日本人たるものは飽までも力を假して其事を助けざる
可らず而して彼の內政の改良其緖に就ていよいよ危險
の虞を去り安全の保證を得るに至るまでは日本兵の駐
在も自から必要にして決して一兵をも減ず可きに非ず
卽ち人民保護の目的を實にするものにして正當防禦の
處置にこそあれば何人と雖も之に對して異議を挾
むことを得べからず若し萬一にも云云するものあらば
是れぞ正しく我が正當の目的を妨げんとするものなれ
ば決して寸步も假す可らず直に日本國の利害を犯すも
のと認めて斷然の處置に出ること正當防禦に止むを得
ざるの手段なる可し然るに彼の支那政府は如何なる理
由にや我に對して漫に撤兵の要求を試みたるのみなら
ず更に兵員を增發して何か爲す所あらんとするものゝ
如しと云ふ彼れ果して何を爲さんとするか假令ひ其兵
力を以て他を脅嚇し以て其求むる所を得んとするも誰
れか斯くの如き我儘勝手なる擧動を許すものあらんや
事の成行自から知る可きのみ彼國人等は果して他の決
心動す可らざるものあるを知るや否や聞く所に據れば
彼國にて專ら今回の事に任ずるものは彼の李鴻章にし
て李は支那の老輩中にて最も他國の事情に明なるも
のなりと云ふ果して然らば斯る無謀の擧に出でゝ其結
果の自國に利なるや不利なるやは自から判斷して自か
ら知るに難からざることならんなれば此際に當りては
大に注意して無益の事を▣しむこそ自家の得策なる可
きに更に其邊の氣色もなきのみか狼狽の餘り大に兵を
增發して例の脅嚇手段に出でんとするを見れば彼も亦
實際は自尊自大、他を知らざる頑陋輩と一般の老物に
して漫に▣勢を以て他を壓せんとして却て自から老後
の恥辱を取ることを悟らざるものなるか或は自から其
得策に非ざるを悟ると雖も一方には平素より內外人に
向て朝鮮の所屬云云を公言したる手前もあり又一方に
は若しも此際に手を引くこともあらば堂堂たる大淸中
華の勢を以て他の威風に畏縮したりとの非難を免れず
して或は自家の地位を動かさるゝの掛念もあるが故に
萬萬不利とは知りながらも止むを得ずして斯る擧動に
出でたるものなるやも知る可らず其事情は何れにして
も結果の責任は李の一身に歸するの外なかる可し我輩
は彼の老伯の心事を推測して轉た憫憐の情に堪へざる
なり
淸國引き續き增兵か
淸國は六千の大軍を派遣すと聲言し、しき
りに準備中なりとの報あれども、別項にも見
ゆるごとく、一昨日までは大同江に淸兵の着
したる模樣なかりしと云う。淸兵派遣の報は
これまで芝罘を發したるものなりしに、一昨
日天津を發したる電報もまた、軍隊派遣の事
を報ぜり。すなわち左のごとし。
軍隊二百、馬數十頭を汽船に搭載して朝鮮
に送りたり。
引き續き五千の兵士、派遣の準備中なり。
日本陸軍部隊、京城に入る
[特派員高見龜氏發] 仁川に着したる軍隊
は、本日を以ってことごとく京城に入りたり。