5月8日
東學黨巨魁宣告餘聞

昨日法務參議張博氏が全祿斗に向て宣告を爲した
る後是にて宣告は終れり自分は法官の身にして罪
人と私に言を交ふる能はざれども一言したき事あ
れば汝に問ふなり汝は命が惜きやと問ひけるに全
祿斗答へて「國法を以て處せらるゝ以上は已むを
得ざるなり」と云ひければ張參議は諄諄として「我
國にては汝等に對する犯罪に就て未だ規定せられ
たるものなし文明諸國に於ては汝等の如き國家の
爲めにする罪人は國事犯として取扱ふ例なれば汝
等も或は死刑を免かるべきも如何せん我國には其
法なきを以て是迄の法律に照して斯く死刑を申し
渡す譯なり去れど汝自ら考へ見よ汝の今日死す るは最も遺憾なるべけれども汝が一度全羅に起り
しより一變して日淸の戰爭となり之に連りて我國
の大改革となり汝等が所謂貪官汚吏閔泳駿以下の
者は或は捕へられて國法に處せられ或は逃亡して
其跡を隱し今日は公明の政事を施すこととなれり卽
ち汝の死は以て今日の公明なる政事を促がしたる
ものといふべし且や老少不定生者必滅は是れ常理
なり汝宜しく安心して瞑すべし若し人生再び生き
還ることあるものとせば此後は決して全羅一隅の痴
民を集めて爲し能はざるの事を圖らず必ず其心膽
を大にし世界の敵し能はざると稱する露國の如き
に向て尙且自ら當らんとする位の大膽量を持つべ
し」と語りけるに全祿斗は憮然として「死は固より
其處なり唯逆名を蒙むるは遺憾なり」と云ひぬ張
參議は「否とよ此宣告は逆名を蒙らしたる宣告に
非ず誤解する勿れ」と慰諭し此れにて全は捕吏に
引立てられ眼を閉ぢて退出せり