6月29日
●獨立問題は永遠
の方針を要す
我國の當事者が外交の上に(又內治の上に)
一定の大方針無きや久し、國權の張らず國
威の榻らずして對外の交涉ある每に常に人
後に落る者之れが爲めとし、彼の條約改正
の屢屢蹉跌するが如きも亦之れが爲めとす
此故に此度の出兵に就ても當事者の平生の
無方針を知る者は皆心私かに之を氣遣ひ、
今日の脫兎の勢ひ、中途にして挫折し虐女
の痴體に終る無きやを危み、又其の事局▣
益益切迫し開戰の或は止み難からんとする
を見るや纔に居留者保護と云ひ撤兵拒絶と
云ふ如き小目的の爲に無謀の師を起すの不
可なるを想ひ、戰ひは唯正に朝鮮獨立問題
と云ふが如き大目的の爲めに開く可き事を
唱へたり、余輩亦其一派にして而も之を論
ずるの最も先、最も▣、最も明なりしは、朝
報讀者の旣に知る所ならん
此頃聞く所に由れば當事者初よりして朝鮮
獨立の問題に意あり、單に撤兵拒絶の如き
小問題を念頭に置く者に非ず兵を動かす唯
だ朝鮮の獨立を永遠に支へんが爲にして其
意は旣に大鳥公使渡韓の日に於て訓令した
りと、然らば則ち當事者の意は全く吾人の
意見と相合したる者なり、吾人復た區區の
杞憂を懷きて我が外交政略を危ぶむ事を要
せざるなり、然れども猶ほ疑ふ當事者が朝
鮮の獨立を支へんと云ふ者は果して外交の
大方針一定して而る後に發したる確乎不拔
の政略なるや否やを
夫れ朝鮮の獨立と云ふ者は、一時の問題に
非ず永久の問題なり、今年之を獨立せしめ
て明年亦其獨立を失ふ事を防ぎ得ずんば今
年の獨立何の效無さなり、一旦朝鮮の獨立
に盡すと云はゞ、永遠其獨立に盡さゞる可
からず、卽ち一時の政略を以て提起す可き
問題に非ずして先づ永久の方針を定め其方
針より發する自然の結果として提起す可き
問題なり、當事者果して永久の方針を一定
し其結果として此度の着手を敢てするに至
りし乎
東洋多事の今日にて朝鮮が與に自ら獨立す
るの力なき事は何人も之を知る、旣に力無
し、之を獨立せしめんには他國の力を借る
事を要す、卽ち朝鮮を獨立せしめんと欲す
る者は、朝鮮に其力を貸すことを覺悟せざる
可からず、朝鮮の獨立を永久にせんと欲せ
ば永久に彼れに力を貸さゞる可からず、人
に力を貸すは我が力を殺ぐなり、朝鮮を永
遠に獨立せしめんには永遠に我が力を殺が
ざる可からず、豈に一時の政略的決心を以
て着手す可きの事業ならんや、當事者果し
て永遠に我力を殺ぎて▣に貸すと云ふ如く
先づ外交上永遠の大方針を一定したる乎
人の力を假りて獨立する者は眞の獨立に非
ず、人に依りて立てるなり、朝鮮を獨立せ
しむると云ふは眞に獨立せしむるの謂に非
ず、獨立國たる我れに依りて立たしむるの
謂なり、卽ち我が屬國と相距る一步ならし
むるなり、然り我れに依りて立つは獨立に
非ず、然れども旣に我に依りて立たば、我
に對してこそ屬國と相近きの實も有れ他に
對しては殆ど獨立國と同樣なり、以て東洋
▣平和を安泰ならしむるに足る、卽ち朝鮮
を獨立せしむるの覺悟は、殆ど彼れを征服
して先れに屬せしむる▣の覺悟を要す、唯
だ之のみに非ず從來朝鮮を屬邦視せる彼の
淸國をして其誤謬を悟らしめ朝鮮と手を切
らしむるまで盡力するの覺悟なかる可から
ず、唯だ淸國のみに非ず、由來朝鮮に垂涎
せる英▣獨佛等をして再び朝鮮の獨立に容
喙せざる迄に至らしむるを要す、唯だ我れ
の名義、我れの目的、朝鮮を屬邦と▣すに在
らずして獨立國たらしむるに在るを▣て列
國を承服せしむる事稍や易しと雖も未來永
久に彼等をして念を朝鮮に絶たしめ、朝鮮
の獨立を危くする能はざらしむ、豈に一時
の政略を以て達する事を得んや
報ずる者の言に曰く當事者の意は日淸兩國
の力を以て大に朝鮮の政治兵制等を改革し
純然たる獨立國と爲らしむるに在り淸國之
を承諾せずんば我は日本一國の力を以て之
を斷行せんと斯の如くんば民間に在りて對
韓策を講ずる有志者の意と大差なし、我れ
我が力を以て彼に政治を改めしめ兵制を正
さしめ興▣▣▣、敎育等、總て彼れを富國▣
兵の域に進み列國に對する其國▣倍置を高
むるの道を得せしめば、彼れの獨立我れの
力に由ると雖も、彼れ又彼れの力を以て自
ら防ぎ自ら支ふるの域に達せずとせず、彼
れを此域に達せしめて、然る後東洋の大局
初めて泰しと云ふ可し、知らず當局者が朝
鮮獨立の爲めに出兵すと云ふ者、眞に斯の
如き永遠の大方針を定めたるが爲に出る乎
、然れども當事者が旣に朝鮮の政治兵制に
▣で改革を施すの決心有りと云ふを思へば
蓋し外交の大方針玆に定まりたる者と見て
吾れ人安心するを得べきか、卅年來開國進
取の名有りて其實無かりし我が外交の方針
が一朝韓山に事あるが爲め確▣として永遠
に定まりしと云ふを得ば、吾人唯だ默して
當事者が今後其方針を如何に運用するかを
拜見せんのみ