4月10日
金鶴羽刺客の白狀
大陰謀の發露(承前)
事件は單に金鶴羽暗殺の事のみならず韓祈錫の此
白狀に由りて此に大陰謀の發露するに至り嚮に○
○○より金千兩を受けて金宏集、金鶴羽殺害の事
を受負ひたりとの事のみを白狀せし高宗柱を更に
訊審せしに彼亦遂に韓祈錫の申供と同一なる白狀
を爲すに至れり唯其異なる點を擧れば左の如し
余は初め單に東學黨招致の事のみを委託せられ
たるも其何が故に東學黨を招くやを示されざる
に於ては御引受け致し難しと迫りしに理由は問
ふを要せず唯○○(○○○)の信跡を携へ行かば
可なりとあり余は益之を疑ひ窮問するに及ん
で彼(○○○)は遂に密室に於て陰謀の槪略を告
げ且つ約すらく事若し成らば授くるに相位を以
てせんと當時余は問ふて曰ふ事若し成らば誰れ
をか王位に置かんとすると彼れ苦笑して曰く何
ぞ好んで刃を人の腹中に置かんとするやと終に
其要領を得ず余は暫らく熟考の時間を與へられ
んことを乞ひて歸宅し細思するやう東學黨招致の
事到底自力の能くすべきに非ずと卽ち一法を案
じ飮酒大醉の餘○○に赴きしに彼れ待ち詫びた
るものゝ如く余を寢室に引き余の狂醉せるを見
て曰く君醉へる乎と余答へて曰ふ東學黨招致の
事不才の能くすべき所に非るのみならず或は日
兵の手に害されん事なしとせず余は寧ろ○○(
○○○)の下に毒を服して死せんとすと彼れ遂
に余の意思の奪ふ可らざるを見たりけん然らば
東學黨に通ずる事之を他人に委すべし唯汝親子
の間と雖ども口を噤せよ若し違はゞ一死立ろに
至らんとす云云
今より察するに夫の井上公使が○○○、○○○に
其東學黨に通じたる書簡を差し付けて大詰責に及
びたるは韓曆十月十五日(彼等陰謀最中)の事にし
て當時井上公使は唯東學黨を煽動したりと云ふ點
にのみ注意せしに過ぎざりしも足に傷持つ彼等は
大陰謀の全體を已に日本公使に看破されたるなら
んと思惟し此は失錯したりと覺えず愕然としたる
ものゝ如く已に日本公使に陰謀の次第を知られた
る上は詮方なしとて其大謀を見合せたるに相違な
からんとの事なり當時井上公使にして此證據物件
を得ざりしならんには如何なる大椿事をや生出し
たりけん恐るべし恐るべし(以上廿五日發、完)