6月8日
何ぞ周章を須
ゐん
國に兵あるは非常に備ふるなり、故に兵の用は止
だ有事の秋に在るにあらず、無事泰平の時に於て
も必らずや修練精熟敵國をして畏服せしむるの勢
威あるを要するなり、況んや親隣友邦に擾亂起り
て動もすれば則ち其累を自國の在外臣民に及ぼす
の恐あり、延いて一國の國權に關する大事を惹起
すことも亦た全たく之れ無しと云ふ可らざるの時
に於てをや、當局者は能く機宜を制して豫め應變
の準備を爲し、金鼓一聲千軍卽ち進むの敏速なか
る可らず
朝鮮東學黨の勢焰は漸く强盛を加へ、數ば官兵を
破りて全州を蹂躪し、今や京城を距る十四里に近
く其勢益す猖獗なりと云ふ而して朝鮮政府は曾
て外兵を借らずして之を鎭壓するの策に決したる
も事體常に非にして姑息に安んずるの日にあらざ
るを覺り終に前議を飜へして袁世凱に對し淸兵の
援を請ふに至れりと傳ふ、淸國果して其請を容れ
て兵を朝鮮に出さん乎天津條約の定むる所に從ひ
豫め之を我國に知照すべし、此時に當りては我
國も亦た傍▣默過すべからざるを以て卽ち淸國に
知照して朝鮮に出兵する猶ほ淸國のごとくすべき
は固より言ふを待たず淸國假りに出兵せずとする
も我國は朝鮮京城を始め其他の各港に在留せる我
臣民を有するを以て其臣民を庇保するが爲めに將
た國旗を擁護するが爲めに相當の兵を送りて彼れ
の騷亂に備へざる可らず左れば我政府が此際に處
するに非常の果斷を以てし適當の地に兵を集め糧
を蓄へ船舶を徵發して機を一髮の間に轉ぜんとす
るは當然の事にして毫も驚くに足らざるなり
軍機の祕密は國民の須らく守るべき處、當時政府
の信と不信とに關せざるなり、故に其所謂機密に
屬するものは世間の耳目を以て任ずるの新聞社と
雖も知りて而して之を報ずること能はざるもの少
からず是れ寔とに已むを得ざるなり、然れども世
人苟くも朝鮮國が東洋に介在せるの位置、淸國が
朝鮮に對するの歷史、我國の朝鮮に於ける關係及
其關係より以て淸國に對するの用意、北方强魯の
野心等を知らば、我政所が此際に處するの用意も
略ぼ察することを得べし
昨今の報道の如く東學黨は破竹の勢を以て進み已
に京城附近まで押寄せたる上は假令ひ淸兵出援せ
ずとも我國先づ兵員派遣の知照を淸國になして直
ちに朝鮮に向ふに至らんこと想察するに堪へたり
蓋し是れ一國養兵の目的を達するものにして非常
に處するの常事と謂ふ可きのみ、兵亂の戡定、臣
民の保護、元と機迫まるの際に處するの事なるが
故に一轉一變異日如何なる難局を見るに至らんも
固より豫め測る可からずと雖も今日の事毫も周章
するを須ゐざるなり、世人請ふ暫らく其心を安ん
じて以て機の推移する處を見よ