3月12日
全捧準を見る 一昨日寫眞師村上文眞氏
及び天祐俠の巨魁と噂されたる田中次郞氏と余と
三人領事館內の鐵窻に呻吟する東學黨の大巨魁全
捧準を見たり蓋し田中次郞氏は天祐俠の巨魁
として全捧準は東學黨の巨魁として客年三月
全羅の根據地に於て相遭逢し國事を談じ將來
を契り死生を以て相許し慷慨淋漓として相分
れたる事あり故を以て田中君先づ問を發して
曰く余の顔を覺え居るかと全捧準答へて曰く
ア▣田中次郞君かと千萬無量の情念を湛へた
る談話の緖開くるや否や警吏の一聲は無殘に
も兩氏の胸襟を隔絶せしめたり此時此際兩氏
の感慨果して如何、互に胸を打て相分れたる
は傍觀の余さへ淚の種なりき彼れ銃劍の爲め
に足を▣帶し顔色手足蒼白く氣息奄奄として頗る
危篤の病狀なるも其氣力は中中剛健の樣見え年齒
三十七八其容貌は尋常に異ならずと雖も疎髯あり
て眼光銳く眉宇の上に幾干となく折重なる一種の
小▣ありて額を▣斷したるは殆んど他に其類を見
ず彼は喜んで寫眞を撮り夫より直に輿に乘り他の
共犯二名と共に法務衙門に引渡さるゝ爲め領事館
を立出でたりアヽ可惜名士よ