三士大に全總督と談ず
羽檄の朗讀は了れり、天佑俠の宿志は漸く爰に東學黨に通ずるを得たり、彼等乃ち
一齊に感激鳴謝の意を表し、全琫準衆に代り謝詞を述べて曰く、公等異邦の人を以
して、尙ほ且つ我奸臣を惡むの情斯の如く烈しく、義に赴くの誠斯の如く明かに、百
姓を哀み、道を天下に行はんとする志斯の如く壯大なる者あり、高訓謹んで之を服
膺す、我等死すと雖も豈に其厚誼を忘れんや、唯恥らくは一黨の者、至誠未だ足らず
して志業の久しく天下に伸びざることを、冀くば公等の保佑に依りて是より益益
之を勉めんと、旣にして相互の間對談は續續として始まれり、然れども此夜は本と
初對面なり、縱し彼我の事情は檄文に依つて能く相通ずとするも、忌憚なく重大の
協議を爲さんことは、時機尙ほ早きに失せり、三士乃ち單に仁義大道の天下に明に
せざる可らざることを述べ、且つ之を明かにするが爲めには大丈夫たる者、一死も
亦甘んじて之を受くることを誓ひしのみ、而して天佑俠第一の目的たる淸國排斥
及び朝鮮革命獨立の大策に至つては、之を次朝の會議に讓ることに決し、敢て一言
も未だ此處に言ひ及ばず、只管黨人の心を收攬することに力めたり、全琫準又相共
に仁義大道の犧牲たるべきを盟約したるに過ぎず、然れども兩者此一夕の應對は
殆んど千載の知己の再會せるが如く、其間互ひに毫毛の疑心を挾まず、肝膽相照し
て春風滿堂の感あり、天佑俠が雲山萬里の來訪、是に於て乎漸く徒勞に屬せざる也