同志の評議紛紛たり
三士は他の僞勅使ならんことを信じて其報を同志の營に齎らせり、所報の如く果
して眞勅使ならずとせば、之を斬つて局面展開の犧牲に供せんこと、先づ覺、束なき
に似たり、之を聞きたる同志の激昂は固より其所なり、群議の遽かに沸騰する、亦た
已むべからざる也、或は曰ふ巨細に其情を具して總督營に送り、改めて全琫準の反
省を求めんと、或は之を反駁して曰ふ、機は旣に逸したり、先入の信念は容易に動か
すべからず、若かじ自然の成行に一任して暫く天佑の至るを竢たんにはと、然れ共
多數の希望する所は、更に寬猛度を得たる施措に依つて、周密に素志の遂行に力め
んと云ふに歸着し、次朝又吉倉、武田、鈴木の三人を勅使營に遣り、其應待の模樣に從
つて、臨機の處分を行はしむるに決す