朝鮮內亂始末
函南逸人編

現世紀の大勢世界眼眸の傾注するところ一に東亞の一極に集
り苟も世の志士と稱し政治家と呼はるゝもの此等東洋政略に
東洋商略に汲汲として其論究に力を盡くすもの蓋し又故なく
んばあらざるなり抑も朝鮮の國たる蕞爾たる一小半島▣國弱
く民野なり然りと雖其の一擧一動たるや東亞の大勢に至大の
影響を及ますもの東西名國の潛心注目を怠らざる亦た宜なり
とす▣れども此國紀綱の紊亂と政務の澁滯とは立國の基礎一
段の敗類を來し國帑の缺乏と民心の腐敗とは病魔の深く膏肓
に入るが如く獨立の名ありて其實なく只僅かに今日一縷の命
脈を明滅の間に繫ぎ得るもの折も何故ぞや實に朝鮮は東洋に 於るバルガン半島たるなり四隣其爪牙を磨し其肉を窺ふこと
久しと雖亦た如何ともするなきなり魯決して之を倂すことを
得ず英敢て之を犯すこと能はず支那又た之を己れに隷屬せし
むることを得ず我國亦た容易に之を動かし難し之れ東洋の和
平を維持するの上に於て將に然らざるを得ざるところのもの
ありて存するなり顧て此國內部の有樣を觀察するに各種不平
黨の潛勢力は今や漸く其の步を進め政府の紀綱振はざるに乘
じ革命を庶幾すべしとなし內地各所に蜂起し內は姦侫を斥ぞ
け忠良を進め外は斥倭斥洋主義を實行すべしといふを名とし
其行爲は極めて着實を旨とし妄擧を避けて專ら地方士民の歡
心を買ふことを勉めたれば從來中央政務の澁滯と地方政治の
積▣とによりて朝政を厭ひつゝありたるの士民は爭て之に應
じ其の勢頗る猖獗を極め監司を殺し郡守を追▣▣▣▣▣▣▣ に大擧して京城を衝かんとするの勢あり此に於てか通商各國
は皆な其國居留民を保護するを名として續續出兵し淸國先づ
之を送り魯之に次ぎ我國亦た若干の兵員を送致するの止を得
ざるに至れり今や朝鮮の危機一髮の間に在り岌岌乎として殆
ど累卵の如きものあるを見る幸にして官兵の力能く反徒を鎭
壓するに足らんか韓國の命運僅に金きを得ん然りと雖今日の
官兵予輩は之に望を屬すること能はざるなり果して官兵の力
反徒に抗する能はざらんか援を隣國に請ふの止を得ざるに至
らん之れ實に韓國安危興廢の▣るところの一大管鍵なりとす
而して這回暴民の擧動を槪觀するときは從來彼の內地に於て
絶へず紛擾をなし鼠竊狗盜隨て起れば隨て仆れたる烏合の一
搔とは少しく異なるところのものあるを見るなり能く一號令
▣▣に▣▣を指揮し其進退驅引の法稍や秩然たるものあるを 見るは人をして多少の疑を起さしむるものあり蓋し年來の暴
擧によりて幾分か兵氣を鍛鍊せるに因りて然るか或は其間他
に黑幕的の人傑ありて多少之れを指揮幹旋するに出るか兎に
角今回の擾亂たる韓國革命の期をして一步を進ましめたるや
も知るべからず吾人は今回反徒の主動力たる東學黨を以て能
く取て代るの實力あるべしと思はざれども今日迄の擧動より
して見るときは又其志の敢て小ならざるものあるに似たり風
聲鶴淚も以て廷臣の膽を奪ふに足り童謠讖語も以て憫家の心
を痛ましむるの韓廷果して能く之に處するの方策を有するや
否や聞く昨年七月より九月に至る三ケ月間內地七十五ケ所に
暴民の蜂起ありたりと或は李氏五百年の天下に代るは鄭氏な
るべしとの豫言は今や正に其進行に向ひつゝあるものゝ如く
暴民の統領の上に尙ほ慶尙道安東府の住人なるもの を推し軍中一切の權力を執らしめ鄭哥は眞天主を以て自ら居
り黨衆を指揮し頗る勢力を有せりと是等は附會の臆說敢て信
するに足らずと雖今日此等の言を出さしむるに至りたるは又
た多少の緣故なくんばあらざるなりその此處に至りたるもの
抑も韓國末路の然らしむるところか今左に這回暴民蜂起の當
時より今日に至るまでの現狀に就き逐次詳述する所あらんと
す