東學黨の軍旗
東學派は何れも頭に白き布片を捲き付け敵と味方を區別する
の徽章となせり然してその軍旗として用ゆるところの旗に二
種あり一は金巾にて造り一は木綿にて製したるものにして金
巾にて造りたるものは幅凡そ二尺四寸位にして長さ七尺餘な
りといふ又木綿の方は幅二尺內外にして長さ五尺餘あり熟れ
もその旗の面には輔國安民暢義など大書せりまたその戰陣に
向ふときにはかならず十二旗の軍旗を飜し種種なる文字を書
き連ね以て人民の甘心を得ることにつとめ當時用ゆるところ
のものには次の如き章文を大書せりといふ若し黨中のものに
して此の令を犯すことあるときは直ちに之を地牢に投するの
制規を立てありといふ
愛撫降者 敬服順者 投濟困者 飢者饋之
貪官逐之 姦猾息之 勿追走者 曉諭逆者
賑恤貧者 給藥病者 不忠除之 不孝刑之
賊徒の眞先に押し立てたる此等の十二旒の軍旗は如何に地方
民に望を屬せしめしか彼等の方便又頗る巧妙なりといふべし
而して彼等は尙ほ全力に於ても相當の準備ありしと見へ敢て
地方土民の米糧等を奪ふことをなさず必需の食料品は之を購
入るゝにあたりて必ず代金を支拂ひ聊かも土民に害を加ふる
ことをなさずされば這回の暴擧たる從來屨屨蜂起したるもの
とは全く其輒を殊にし朝政の紊亂に厭きたるの地方民等時と
しては一層の歡呼を以て此等反徒を迎へたるもの亦決してそ
の故なきに非るなり