○全州營將の內應
全州の營將たる金始豐は數年前に當りて火賊蜂起の際其の討
滅に切ありたるよりして營將の重任に拔擢せられたる者にて
その權威頗る盛んにして監司を雖之れに一步を讓るほどのも
のなりしが常に政府の施政に不滿を抱き時時之を口外するこ
とありしが今回東學黨の起りてより之に內應せしかは遂に其
證跡を見出され招討使の都下の兵丁に捕縛せられ種種の尋問
を受けしが元來金始豐は膂力人に超へ頗る强膽なる人なりし
が法廷に引出さるゝや少しも恐るゝ氣色なく韓廷の不道を罵
り閔氏の專橫を怒り遂に天道は惡人を助けて善人を見捨てる
にやと傍若無人に嘲罵しつゝありしが後ちに緊縛せられて獄
に入るや自ら其縛を絶ち劍を揮て逃走せしも復び官兵の追捕
するところとなり卽坐に打ち殺されしといふ