○賊俘の大氣焰
招討使の一軍或る日一山間に於て東學派中の數十人の通行す
るものに遭ひたれは直ちに之を拿へて陣營に歸り縛して詰問
せしに渠等抗辨して曰く予等忠孝を以て本とし滿朝の姦賊を
除かんと欲するのみ敢て他意あるにあらず然るに何が故に予
等に名づくるに逆名を以てせんとするか時逆賊と稱し得べき
ものは貪婪飽くなきの方伯守令のみ我等の巨魁東道大將軍李
世年令纔づかに十四歲なるも上は天文に通じ下は地理に精し
尙ほ其上にも能く人の禍福を辨知す且つ鄭徐の兩元師
みな英雄豪傑にして古の良將と雖も之に過くることはあらざ
るべし之に加ふるに已に十萬の精兵あり招討使八百の弱卒何
ぞ恐るゝに足らんやと招討使▣に問ふ汝等の官兵と抗戰する
や白布一とたび揮へば矢石彈砲も之を穿つこと能はざるもの
は何故なるや渠等答て曰く水は火に克つもの火砲焉ぞ能く水
白を犯さんや云云と意氣頗る昂然甘じて枷囚に就き其處分を
待つもの 如しといふ今回の東派たる眞に能く士卒の心を攪
り得たるものと云ふべし