○外兵借入の妄議
東學黨の暴擧鎭壓のため派遣せし官兵は連戰連敗一も奏功せ
しことなく招討使は援軍の一日も早からん事を督促し士卒は
日を逐て賊門に降り糧食の繼かざるを訴ふるあれば賊兵頗る
猖獗にして直ちに京城にも侵入せんとすと報するものありて
京城の危急且夕に迫れりといふものあるに至りては如何に韓
廷內に於る幾多俗物の肝膽をして寒からしめしよ此に於てか
外兵借入れの議論は早くも廟堂の內部には起りたり英に借ら
んか露に借らんか將た支那に借らんか日本に借らんかとの硏
究は始まれり然れども內亂を鎭定するに外兵を借入るゝは啻
に自主自護の本旨に背くのみならず偶偶以て外國干涉の端を
開さ其後忠言ふべからざるものあらん如かず近畿の兵を驅り
盡して以て征討軍を增發せんにはと終に此硬直の說勝を占め
たるために外兵借入の妄議は一時中止するの姿となりしも形
勢日に非なるの結果は遂に韓廷をして淸國に出兵を依賴する
の止を得ざるに至らしめたるぞ是非もなき