○長城の戰況
官兵は靈光に假營を設け賊軍は長城の傍らなる山腹に占據し
唯兩軍相互に擧動を窺ふのみなりしが官軍は兵を二隊に組織
し一隊は二百名にして大砲二門を備へ高敞を經てまた一隊は
五十名の人數に大砲二門をそなへ森溪をへていづれも賊陣を
目指し出發せしは五月二十七日午前四時頃のことなりしとしか
して同日午後六時頃賊軍の陣營なる長城に着せしが賊軍は其
數漸く百名に過ぎずして甚だ虛なるが如く兩軍相隔つること
僅かに三四丁にして遂に銃擊を始めたるに賊兵は次第次第に
多數となり殊にまた左右兩方より伏兵蹶起し其人員數千に達
し勢ひさながら破竹の如く官兵は僅に一時間を經ざるに業に
已に大敗し砲兵の士官一名は生け擒にせられ尙ほ大砲二門を
橫奪せられ死傷者實に百數十人の多きに達せりといふ