○東學黨幼童を慰撫して軍氣大に振ふ
頃日東徒の一隊整列して全羅の某一村落を通行す全村寂寞と
して絶へて人影を見す途に一少年あり年齒僅かに十四五悄然
として佇立し何にか思ふところのものあるが如し東徒の前鋒
訝しきことに思ひその故を問へば少年答へて曰く兒が家素と
赤貧衣食の以て給ずべきなく僅かに兒が薄利なる商法により
て雙親の口を糊するのみ然るに今回は事變起りてより大に商
路を塞ぎ又た如何ともすること能はず何の面目ありてか再び
父母に見ゆることをえん兒の意すでに決せり潔よく刃にふれ
て死せんのみと言終りて神色自若たり東徒みな感泣し少年の
衣に危害を被むらしめざるの印章を押し更らに十兩の錢を與
へ百方慰掌して家に歸らしむと此事各地に傳はるや遠近の壯
丁其義を慕ふて來り會するもの太だ多く東徒の兵勢俄かに振
へりといふ