○李朝五百年の亂

李成桂高麗を亡ばし王氏に代りて自立せしは紀元千三百九十
二年我が明德三年にして後小松帝の朝又たその朝鮮と改號せ
しは紀元千三百九十七年我が應永四年にして今を距る五百年
の前に在り李氏の朝五百年にして一大革變を來すべしとは久
しく彼國好奇者の口に傳へられたる讖言なり此の讖言は所謂
痴人の夢にも價ひせざるものなりとて誰人も之を顧るものあ
らざりしが俚言俗謠亦一槪に排斥すべからず今年今夏に至り
て東學黨の變亂起り韓廷の狼狽は言ふに及ばず延て王室にま
で一大憂患を與ふるの不幸を惹起すに至れり纖言必ずしも適 中せしと いふべがらざれども亦一奇と云ふべし今朝鮮の初
代卽ち李朝第一世より第三十世今王に至る(曆年五百○二年)同
國君主の稱號登位の年次等を左に揭げ以て讀者の一餐に供す
稱號 先考 登位
太祖考獻王 子春榮錄太夫 千三百九十二年
定宗恭靖王 太祖二男 千三百九十八年
太祖恭靖王 太祖五男 千四百年
世宗莊憲王 太宗三男 千四百十八年
文宗恭順王 世宗一男 千四百五十年
端宗恭懿王 文宗一男 千四百五十二年
世祖惠莊王 世宗二男 千四百五十五年
德宗懷簡王 世祖一男 未詳
睿宗襄悼王 世祖二男 千四百六十八年
成宗康靖王 德宗二男 千四百六十九年
燕山君 成宗一男 千四百五十四年
中宗恭僖王 成宗二男 千五百五年 仁宗樂靖王 中宗一男 千五百四十四年
明宗恭憲王 中宗二男 千五百四十五年
宣祖昭敬王 中宗九男德興太院君三男 千五百六十七年
光安君 宣祖三男 千六百○八年
仁祖恭良王 宣祖六男 未詳
仁祖惠文王 光安君一男 千六百二十三年
孝宗宣文王 仁祖二男 千六百四十九年
顯宗影孝王 孝祖一男 千六百五十九年
肅宗元孝王 顯宗一男 千六百七十四年
景宗宣孝王 肅宗一男 千七百二十年
英宗顯孝王 肅宗四男 千七百二十四年
眞宗孝章王 英宗一男 未詳
正宗莊孝王 英宗二男思悼世子一男 千七百七十六年
純祖成孝王 正宗二男 千八百年
翼宗孝明王 純宗一男 未詳
憲宗哲孝王 翼宗一男 千八百三十四年
哲宗英孝王 全溪大院君三男 千八百四十九年 今王名は熙、字は聖臨、誠軒と號し興全大君の二男千八百五十二年(我が嘉永五年)七月二十
五日誕辰、千八百六十三年(我が文久三年)登位
王妃閔氏 驪城府院君致錄の女千八百五十一年(我が嘉永四年)五月二十九日誕辰
世子宮 名は坧、君邦と號す宮の妃は閔氏なり