朝鮮の新興と東洋の平和
朝鮮は漸く將に復活せんとす。何ぞや。朝鮮革新の機正に今日に熟すれは也。朝鮮の腐
敗する者。殆と其絶頂に達したり。其國家は獨立國と稱すと雖。獨立の元氣無く。其君
主は柔懦にして宦官の爲に制せられ。其人民は愚弱にして特殊の精神氣象無く。政權分
裂。人心離散。國防全く廢弛して境上を守るの兵無く。海岸長大なりと雖。一隻の軍艦。
一個の軍港を有せず。財政紊亂。其歲出入に定額無く。國民敎育の基礎確立せず。學校
の設け無く。鐵道航海等運輸の便。一切杜絶して。殖産事業更に發達せざる。是れ朝鮮
の現狀なりし也。世論は朝鮮の獨立を唱へり。知らす朝鮮其れ自ら絶て獨立の元氣無き
を各國の前に示したるに非ずや。
豈啻に然るのみならんや。淸國は公然朝鮮を以て中國の屬邦なりと稱し。彼の袁世凱な
るものをして朝鮮を其掌上に弄し。縱橫自在に其政權を左右せしめ居りしに非ずや。而
して朝鮮其れ自ら淸國の屬邦たるを甘んじ。其冊封を受け正朔を奉じ。大に事ふを以て
主義と爲すに非ずや。朝鮮は外に對して獨立の空名を表すれとも。其實。亡國の位置に
在りしにあらずや。
然りと雖。朝鮮は東洋の關門也。日本帝國の北面外郭也。淸にして朝鮮を以て其屬邦と
爲すときは。東洋の平和。淸の爲に破られ。露にして朝鮮を以て其附庸と爲すときは。
東洋の平和。亦露の爲に破られ。東洋列國の權力。一日も其均衡を保つこと能はざらんと
す。故に朝鮮の獨立を害する者は。力を盡して之を排斥せざるべからさること。固より
なり。
宇內强國對峙して雄を爭ふや。必爭の要地あり。卽はちボスホラス海峽の黑海に於る。
ジブラルターの地中海に於る。ヘラツトの中央亞細亞に於る是れなり。而して朝鮮の東
洋支那海に於るか如き亦然り。故に此の如き要地は。之を守り之を占むるに十分確乎不
拔なる國是と。强固なる國力とを有する國民に非されば能はず。然るに。今此の如き要
地に居り。形勝を占むるの邦國にして。其紀綱全く衰頹し。其民心全く離散し。其國防
全く廢弛し。到底其獨立を保つこと能はざるものあらんには。果して如何と爲すか。其國
に隣する者。安ぞ嚴格に之を保護し。其平和を保維する所以を謀らざるべけんや。
今や日本帝國は東洋の平和の爲に。兵を朝鮮に出して。淸國の干涉を排斥し。其獨立を
保護せんとせり。而して朝鮮政府は。我國の要請を容れて。著著。其改革に着手せり。
是れ豈朝鮮復活の時にあらざらんや。
朝鮮の腐敗。其絶頂に達し。殆と獨立すること能はさるか如くなりと雖。是れ施政其當を
得さるのみ。而して其蠧毒たる閔氏一族。事大主義一派其跡を拂ひ。大院君執政と爲り。
革新黨の人物。各其要路に列し。銳意して改革に着手せるに至りたれば。統一の治。作
新の政。創業の風。斯王國を建設する豈致し難からんや。日本帝國は。其改革に對し。
責任を以て之を成就せしめざるべからず。何ぞや。朝鮮の革新は。東洋の平和の爲めな
れば也。東洋の平和を保維するは。日本帝國の一大任務なれば也。此一大任務は。是れ
日本帝國の獨立の爰に必要な。
朝鮮の獨立と東洋の平和とは。二にして一たり。朝鮮にして獨立せずんば。則ち東洋の
安危測るべからず。東洋の安危測るべからずんば。則ち日本の安危も亦未だ測るべから
ず。故に雞林八道の山川は。東洋の爲に之を保護し。朝鮮政府は東洋の爲に之れを革新
し。東洋百年の計を定めざるべからず。而して是れ日本帝國北面の外郭を固むる所以の
道也。
日本帝國は朝鮮を開導し保護し。之をして獨立の實を擧けしめざるべからず。而して朝
鮮は今日自ら新興國の規模を以て政治經濟兵事一切の革新を謀り儼然東洋に獨立すべき
時にあらずや。
今日朝鮮政府が、其前途に於て經營し又は擔當せざるべからざる者、內外多揆、其緊要なる者
一にして足らずと雖、其特に重大なる問題は、左の如し、
(第一) 王政統一の實を擧げ、大權を朝廷に收め、現在
は勿論、後來と雖、一切淸國の關涉を杜絶すべき事、
(第二) 國政の作新と同時に士氣の振興を謀り、外、淸
國の冊封を謝絶し、內、草莽有爲の人才を拔擢し、大
に弊政を打破すべき事、
(第三) 日本より內外の大勢に通ぐ膽識兼優なる第
一流の顧問官一人を聘し、大に內治革新の實を擧ぐ
べき事、
此三者を實行せば則ち其國は堂堂たる東洋の一大獨立國也、區區たる官制の改革何を以て
此國を垂死の域に救ふことを得んや。